新グッズが出るたびに「転売」……その陰で暗躍するディズニーグッズ「転売ヤー」たちの手口

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 パーク内のワゴンをデザインに使ったポップコーンバケット、学生を対象として期間限定で配布している「東京ディズニーリゾート卒業しない証書」……東京ディズニーリゾート内で手に入れられるグッズの転売が止まらない。一体、どんな人物たちの手によって、転売は起きているのか?

 フリーライターの奥窪優木氏は、新作グッズ発売日に、ディズニーランドへ「仕入れ」に行く中国人転売ヤーたちに密着。その様子をお伝えする。(引用は全て奥窪氏の最新刊『転売ヤー 闇の経済学』から)

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 首都高速の葛西出口を降り、湾岸道路の舞浜大橋に差し掛かると、左車線の流れは急に滞り始めた。中央車線からその車列に加わろうとするのは、北関東や東海地方ナンバーの車だ。朝のラッシュに想像されるような殺伐さはなく、まるで同じ聖地を目指す巡礼者のように、互いに道を譲り合う。

 新年度が始まった2023年4月の平日の午前8時過ぎ。前の車のリアガラスに目を向けると、車内で子供がはしゃいでいるのが見える。それもそのはずだ。次の分岐点で左に下れば、「夢の国」はすぐそこなのだ。

 一方、筆者が乗るレンタカーのワゴン車は、メルヘンな雰囲気とは無縁だった。

「だからもう一つ先の浦安出口で降りたほうがいいって言ったのに!」

 イラついた口調で吐き捨てる助手席の劉姐(リウジエ)を、運転席の蒋偉(ジャンウェイ)は、右頬を照らす朝日を眩しがるふりをしてやり過ごしていた。

 ふたりのすぐ後ろに座る梓梓(ヅゥヅゥ)と小静(シャオジン)は、彼らのやりとりなど気にも留めない様子で、それぞれスマートフォンの画面を指で叩いている。最後列の阿麗(アリー)は、集合場所の池袋を出発した直後、イヤフォンで耳を塞いで目を閉じたかと思うと、それから微動だにしていない。

 彼らが目指すのもまた、「夢の国」だ。しかし遊びに行くわけではない。なにしろこの車に乗っているのは、転売ヤー集団なのである(彼らの名前はすべて仮名)。

 この日も、ディズニーシーで複数の新商品の発売日だった。なかでも目玉商品はテディベアのキャラクター、「ダッフィー&フレンズ」の新作だという。

「今日は忙しくなる」

 スマホを覗き込んだまま梓梓がそう呟いた。ディズニーグッズの買い付け前には、いつも小紅書(シャオホンスゥ・中国の若い女性に人気のSNS)のフォロワーからの予約注文を受け付けている。この日はいつにも増して注文が入っているという。

「快点儿!(早くしてよ!)」

 ディズニーシーに隣接する駐車場に車を停めたのち、ハッチバックを開けてモタつく蒋偉を、劉姐が急きたてる。しかし彼には、購入したグッズを入れるビニールバッグなど、買い付けに必要な道具を持ち運ぶという大事な役割があるのだ。

 入園を待つ100メートルほどの行列の最後尾に一行が加わったのは、午前8時40分ごろのこと。

 平日にもかかわらずこの混雑ぶりは、TDR開業40周年を数日後に控えているためだろう。周りを見回せば家族連れや若いカップルなどばかり。20~40代の男女6人組のわれわれは、どういった集団に見えているのだろうか。できるだけ目立ちたくない。そう思ってうつむき加減に行列の流れに沿って歩いた。

 及び腰の筆者をよそに、入園ゲートに辿り着いた彼女らは異様な行動に出た。

 6人の中で先頭にいた小静がまず、スマホに保存されている電子チケットのQRコードをゲートの読み取り機にかざす。「ピッ」という認証音が鳴ったあとも回転ゲートを通り抜けることはせず、再びスマホを読み取り機にかざしたのだった。そして2回目の認証音が鳴ると、またもやスマホを読み取り機にかざす。小静がようやく回転ゲートを通過したのは、認証音を4度鳴らしてからのことだった。

 最初は、他のメンバーのチケットをまとめてチェックインをしたものだと思っていた。ところが小静に続いた梓梓と劉姐も同じ手順で認証音を4度響かせたのだった。

「TDRの新発売のグッズには、『同一商品はひとり3点まで』という購入制限がされているものが多いんだよ。でも、こうやってわざわざ買い付けに来たからには、できるだけの量を仕入れたいでしょ。だから今日は、ひとり4枚ずつチケットを用意したよ。実際に入園する人はひとりでも、ゲートで『使用済み』にしたチケットが4枚あれば、同一商品もひとり12点まで買えるからね」

 阿麗はそう説明すると、入園ゲートへと進んでいった。

 不審な行為の理由が、転売対策の購入個数制限を突破するための手段だと知った筆者は、彼女がスタッフに呼び止められるのではないかとヒヤヒヤしていたが、目の前にいるスタッフは気にも留めていない様子だ。

 結果、5人は15人の“透明な同行者”とともに入園を果たした。

スタンバイパス争奪戦

 さっそく売り場に直行するのかと思いきや、彼らは歩速を緩め、一斉にスマホの操作を始めた。

「アプリでスタンバイパスを取らなきゃいけない」

 劉姐がいった。

 スタンバイパスとは、東京ディズニーリゾート・アプリで15分ごとに利用時間が区切られた予約枠を取得することで、混雑に悩まされることなく買い物ができるというシステムだ。新商品発売日からしばらくの間は、パーク内のいくつかの店ではこのパスが必要になる。今日のメインターゲットである「ダッフィー&フレンズ」の新作のような希少性の高い、つまり転売時に利幅の大きい限定グッズの数々が販売されているのも、スタンバイ制のショップなのだ。そしてスタンバイパスは、入園後でなければ取得することはできない。

 つまり転売ヤーにとっての入園後、最初の仕事がこのスタンバイパスの獲得であり、取れなければ買い付けが始まらないのだ。

 筆者も、自身のスマホでアプリを開き、スタンバイパスの取得を試みた。開園からまだ30分ほどしか経っていないというのに、どのショップも午前中の予約枠はすべて一杯になっていた。

 しかし劉姐は事もなげだ。

「何度もアプリの画面を更新していたら、“空き”が出てくる。予約枠が補充されたり、一回予約した人がキャンセルしたりするから」

 5人それぞれがスマホと睨めっこを続けること約10分、劉姐に小言を言われて意気消沈ぎみだった蒋偉が得意げに声を上げた。

「我取得了!(取れた!)」

 彼が獲得したのは、入園ゲートからすぐの場所にあるガッレリーア・ディズニーというショップの10時15分の枠だった。

 一行は、ショップの方角へと進み始めたものの、蒋偉を除く女性陣は相変わらず歩きスマホをしている。

「蒋偉が取ったのは、彼がチケットを持っている4人分の予約枠だけ。園内を行ったり来たりすることなく効率よく買い回るために、残り16人分の予約枠も、同じ店で近い時間帯に取れるように探している」(劉姐)

 ショップの前に到着してもなお、彼女らはスマホの操作を続けていた。その結果、午前中に全員それぞれがパスを入手し、計20人分の予約枠を取得することに成功した。そして10時15分ちょうど、入り口に立っているスタッフに蒋偉が4人分のスタンバイパスを提示し、阿麗、小静、梓梓とともに店内へと入っていった。劉姐と筆者は外で待機だ。

よく見ると、そこかしこに転売ヤーが

 近くのベンチに腰掛け、人の流れを眺めていると、彼女ら以外にも大勢の転売ヤーが闊歩していることに気がついた。転売ヤー集団を見分けるのは簡単だ。まず、彼らは大抵4~5人のグループで歩いている。そして、購入した大量のグッズを持ち運ぶための大型のビニールバッグを両肩から下げているのも特徴だ。バッグは園内で売られているキャラクターバッグであったり、IKEAで売られている青いバッグだったりで、多くの場合は使い古されている。「夢の国」に出かけるのに、わざわざ薄汚れた大型ビニールバッグを持ってくる一般客など、ほとんどいない。逆に、コアなディズニーファンが着用しているキャラクターもののカチューシャや被り物の類を着けている転売ヤーは皆無だ。彼らにとってTDRはあくまで商材買い付けの場でしかないのだろう。

 15分経つと、蒋偉らは、すこし膨らんだビニールバッグを抱えて外に出てきた。

 それを出迎えようと立ち上がったのだが、彼女らはこちらに来ることなく、もう一度店の入り口にもどる。今度は小静が4人分のスタンバイパスをスタッフに見せて、再度入店したのだった。彼女は、ちょうど次の時間帯の予約枠を取得していたのだ。

 店を出た直後に再入店する彼女らに、スタッフが怪訝な表情ひとつ浮かべなかったのは、ひとり4枚のチケットで入園した際と同様だ。

 若干、手持ち無沙汰になった筆者は、出入り口から店の中を覗き見た。驚いたことに、中にいる買い物客の7~8割が、前述の“転売ヤールック”なのである。先ほどから店には別の転売ヤー集団も盛んに出入りしていることは気づいていたが、ここまでとは思わなかった。

 しかしよく考えてみればそれもそうだろう。多くの一般客にとって、ディズニーのお目当てはまずはアトラクションやショーだ。それらを犠牲にしながら、スマホと睨めっこしてアプリ画面の更新を繰り返して予約枠を勝ち取り、さらに指定された時間にショップを訪れるというのは、ハードルが高すぎる。

 スタンバイパスはもともと、混雑に悩まされることなく落ち着いて買い物を楽しんでもらうために導入されたシステムかもしれない。しかし、その恩恵を最も受けているのは転売ヤー集団という、皮肉な状況となっているのだ。「夢の国」というのは、“転売ヤーにとっての”ものと言ってもいいのかもしれない。

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