「ウルルン」ナレーションで親しまれた下條アトムさん 「もともとはスターだった」俳優としての姿【追悼】
「自分は役者なのに」
77年、アメリカのテレビドラマ「刑事スタスキー&ハッチ」で主人公の吹き替えを請われ、声がぴったりだと番組は想定外の人気に。声優の役割がまだ重視されていない時代で、自分は役者なのにと戸惑ったが、声の仕事を大切にしていく。80年代半ば以降、エディ・マーフィの映画出演作の吹き替えで注目を浴びた。
映画評論家の垣井道弘さんは言う。
「伝わるのは声だけでもエディの気持ちになりきり、画面上で展開される演技の邪魔はしない。他人を立てるアトムさんの姿勢が吹き替えに合っていました」
「ウルルン」ナレーションへの思い
声の評判が「世界ウルルン滞在記」のナレーションにつながった。自然環境の厳しい地での撮影に出演者やスタッフはどんな気持ちなのだろう、と思いをはせるうちに“頑張れ”と励ましたい心境になったという。
「本心で応援していて声に白々しい面がない。演技同様、まず“人間であれ”という父親の言葉が表現の基本になっていた」(垣井さん)
正巳さんは2004年に他界。父親と自分の関係は、おいちゃんと寅さんに似ていると感じるようになる。79年に再婚した相手との間に1女を授かるもまた離婚してしまった。幼い頃からケガが多く、大人になっても心配をかけ、父親は“しょうがねぇな”と思いながらも見守ってくれたと気付く。
テレビドラマや映画への出演は途切れなかったが、23年9月、急性硬膜下血腫に。容体が急変し、1月29日、78歳で逝去。
役者は常に気持ちが追われているようだと語りつつ、浮き沈みの激しい世界で半世紀以上最前線で活躍した。
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