ウクライナ平和維持部隊に慎重姿勢、防衛力は弱体化…「政権交代」ドイツが向き合うべき最大の課題とは
債務ブレーキの見直しは不可欠
景気回復が急務である新政権にとって、避けて通れないのが緊縮財政路線の見直しだ。
ドイツ基本法(憲法)では「債務ブレーキ」が規定されている。連邦政府の財政赤字を国内総生産(GDP)比で0.35%に限定するもので、2009年の金融危機の際に当時のメルケル政権下で取られた措置だ。
そのおかげで、昨年の政府債務残高はGDP比で約63%と大半の国より余裕があるが、債務ブレーキについてはこのところ批判が相次いでいる。この仕組みが災いして、公共インフラから人材教育に至るまで、衰退するドイツの経済モデルを刷新するために必要な投資を実施することができないからだ。
メルツ氏は「ドル箱」だった中国に対しても厳しい態度を示しており、輸出主導から内需主導の転換を図るためにも債務ブレーキの見直しは不可欠だ。
だが、ハードルは高いと言わざるを得ない。債務ブレーキの見直しのためには連邦議員3分の2の賛成が必要だが、難色を示すAfDと左派党が総議席630のうち216を占める見込みだ。
タカ派的な発言が一転
債務ブレーキはドイツの安全保障にも暗い影を投げかけている。メルツ氏は「欧州が米国から『真の独立』を達成できるよう取り組む」としているが、軍事力増強のためには財源の手当てが欠かせない。
ドイツの昨年の軍事費は28%増加し、その規模は英国を抜いて欧州最大となったが、景気低迷の影響で税収が伸び悩んでおり、「伸びしろ」がほとんどないのが実情だ。
英仏主導でウクライナに平和維持部隊を派遣する動きが出ていることも、ドイツにとって悩ましい問題だ。メルツ氏はこれまで安保でタカ派的な発言が多かったが、この提案については「国際法のお墨付きが参加の前提だ」と慎重な態度をとっている。
ロシアがもし攻撃を仕掛けてきたら
ドイツの防衛力の弱体化が背景にあると筆者は考えている。
ロイターは2月13日、ドイツ連邦軍の現在の戦闘即応性は、ロシアがウクライナ侵攻を開始した2022年当時よりも低下していると報じた。また、ドイツ連邦軍協会によれば、ウクライナへの武器弾薬などの供与の影響で利用できる装備が逼迫しているため、地上部隊の即応性は65%から50%前後に下がっている。
ロシアがNATO加盟国に攻撃を仕掛けてきた場合、真っ先に反撃する地上部隊兵力を供出する役割を担うのがドイツのはずなのだが、その自信が持てないというわけだ。
ハイパーインフレの経験を持つドイツは長年、緊縮財政を堅持してきたが、今やメリットよりもデメリットの方がはるかに大きい。
新政権がこの問題に適切に対処しない限り、欧州の雄であるドイツが低迷から抜け出すことは困難なのではないだろうか。
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