尹大統領の「自主退陣論」が浮上…内戦回避の切り札となるか

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身を捨ててこそ…

 朝鮮日報コラムニストの金大中(キム・デジュン)氏も「[金大中コラム]司法が国を救わねば」(2月11日、韓国語版)で大統領に身を引くよう暗に勧めました。左派の元大統領と同名のこの人は保守言論界の大御所です。

 説得のポイントは、弾劾訴追が棄却され尹錫悦氏が大統領職に戻ったとしてもまともな国政運営は期待できない点を突いたのです。与党の分裂によって戒厳令の前から政権は迷走していたのです。

・保守層は尹大統領の弾劾には反対しながらも、彼が復帰し国をきちんと率いていけるかは疑っている。残る任期の2年間も困難な旅となるであろう。そんな現実は次期大統領を狙う保守候補にも不利に働き、保守政権の再登板はさらに難しくなる。

 金大中氏はトランプ(Donald Trump)大統領の登場など国際情勢の急変により、現在の韓国が政治的な空白を許されないことも指摘しました。

 そして「自ら退陣せよ」とまでは言わぬものの、尹錫悦大統領に「死んで生きる道を選べ」――意訳すれば「身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ」と諭したのです。

ニクソンも潔く身を引いた

 朝鮮日報の楊相勲(ヤン・サンフン)主筆も明確な言い方ではないものの、自主退陣論を唱えました。議会による弾劾の表決前に辞任したニクソン(Richard Nixon)大統領の退陣を挙げていることと、記事の見出し「[楊相勲コラム]弾劾対棄却 2つの選択だけではない」(2月13日、韓国語版)から、本意は明らかです。

 楊相勲主筆の懸念は左右の物理的な衝突にあります。

・弾劾の審判が問題の終わりではなく、新たな始まりになるかもしれないとの心配が胸を突く。戒厳事態直後から今に至る2カ月間で、弾劾反対世論が高まってきた。仮に弾劾が決まれば、激しい逆風にさらされるだろう。
・もし、弾劾が棄却されれば、それに反発する大規模のデモが起こることは間違いない。ここには韓国社会の専門的なデモ部隊が全て集結するだろう。下手すれば本当の国家非常事態に陥る。
・[裁判所襲撃事件で]本性を現した弾劾反対勢力もこれを座視するわけがない。両派の巨大な群集が衝突する事態を憂うるばかりだ。

 そして、楊相勲主筆は「『あれかこれしかない』のは法の領域であり、『それ』を探すのが政治の領域である」と大統領に引導を渡したのです。もちろん「それ」とは自主的退陣を指すわけです。

 朝鮮日報は2月21日、李河遠(イ・ハウォン)外交安保エディターの「[太平路]1974年 ニクソン米大統領」(韓国語版)を載せました。

 ウォーターゲート事件で追い込まれたニクソン大統領が、いったんは弾劾訴追に立ち向かうことを決めたものの、最後は自ら辞任したこと、その1カ月後に任期中の犯罪に関し全て恩赦された事実ことを淡々と書いています。最後の1行でようやく韓国に触れました。

・憲法裁判所の決定により悪くすると国が2つに割れかねない危機状況で、51年前のニクソンの事例が我々に示唆することが少なくない。

 自主退陣論はもはや保守系紙、朝鮮日報の社論になった感があります。

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