尹大統領の「自主退陣論」が浮上…内戦回避の切り札となるか
人気爆発、恩赦も可能に
尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領は自ら辞任すべきだ――との声が韓国の保守から上がる。「弾劾に追い込まれる可能性が高い以上、大統領選挙で保守が有利になるよう、その前に身を引け」との理屈だ。韓国観察者の鈴置高史氏は内戦回避の切り札と見るのだが……。
鈴置:保守の有力指導者、趙甲済(チョ・カプチェ)氏が2月11日に大統領の自主退陣論を主張しました。「趙甲済ドットコム」に載せた「今、尹錫悦大統領が下野するなら!」(韓国語)です。
趙甲済氏は「憲法裁判所が審判を下す前に、大統領が電撃的に下野声明を発表すれば、政治的な地殻変動が起きる」と主張しました。その後の展開を具体的に予想しています。項目の順番を少し入れ替えて引用します。
・国民統合と法治守護のために犠牲となる姿に映って人気が爆発し、特に[与党]「国民の力」への影響力を増すだろう。
・同情的な世論が裁判所にも影響を与え、進行中の内乱罪容疑による裁判も不拘束で進められることになろう。
・汎自由陣営候補の単一化がきっかけとなって、大統領選挙で勝てば(尹錫悦大統領が有罪判決を下された時に)赦免してくれる可能性が高い。
・彼は強力な政治的影響力を維持することになろう。
大統領の座を降りても影響力は維持できる。弾劾訴追と並行して進められている内乱罪容疑の刑事裁判の間も拘置所から出られ、恩赦も可能だ――と尹錫悦氏の説得にかかったのです。
国論分裂を防ぐ
恩赦には前例があります。全斗煥(チョン・ドゥファン)、盧泰愚(ノ・テウ)両将軍は1979年12月、非常戒厳を宣布して粛軍クーデターを敢行。2人は大統領退任後に内乱罪などでそれぞれ死刑と懲役17年を宣告されました。それを金泳三(キム・ヨンサム)大統領が自身の退任直前に恩赦したのです。
趙甲済氏は自主的な退陣は野党第1党「共に民主党」の李在明(イ・ジェミョン)代表に対する大統領選の出馬放棄の圧力となる、とも強調しました。尹錫悦氏が潔く身を引けば「李在明氏も見習え」との声が高まるであろうからです。
これは与党「国民の力」に向けた説得の側面が強い。李在明氏は次期大統領選挙で最も優勢と見られています。ただ、同氏には公職選挙法違反で一審有罪の判決が出ており、最終審で判決が確定すれば大統領選挙に立候補する資格を失います。
今でも大統領として不適格との声が根強い。そこで、弾劾阻止にこだわる与党に対し「弱みを抱えた者同士の相撃ちという手がある」と教唆したのです。
趙甲済氏は内戦を懸念する人に向けてでしょう「憲法裁判所の弾劾審判を巡る国論分裂を避ける効用がある」とも訴えました。
「『気分はもう内戦』の韓国 裁判所を襲撃で司法崩壊…“世界最高の民度”の現在は」で指摘したように、韓国では弾劾訴追が認められても、棄却されても暴動が起こると見られています。
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