「ゼレンスキー大統領」を“独裁者”と呼び「プーチン大統領」と急接近…トランプ大統領“終戦圧力”の背景に「真の脅威である中国に専念したい」との思惑

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メディアも政治も“米欧分断”

 ところが蓋を開けてみるとウクライナ軍による必死の反撃に自慢の戦車は歯が立たず、大量の戦車が破壊、鹵獲(ろかく)されてしまった。

「今後もロシアに対する経済制裁が継続されるというのが前提の分析になりますが、まずロシア海軍の被害が甚大です。フィンランドとスウェーデンのNATO加盟も大きく、ロシアはバルト海、黒海、地中海の制海権を失いました。陸軍の機甲師団も経済制裁で部品の調達が難しく、再建には長い年月が必要でしょう。アメリカは化けの皮が剥がれたロシアとは早期の和解を実現し、真の脅威である中国への対応に専念したいのではないでしょうか」(同・軍事ジャーナリスト)

 防衛大学名誉教授の佐瀬昌盛氏は東西冷戦研究の第一人者であり、集団的自衛権に関する知見でも知られている。なぜトランプ大統領はヨーロッパの意向を無視し、ロシアを重視する外交政策を採っているのか、佐瀬氏に話を聞いた。

「注目すべきはヨーロッパの高級紙の論調です。イギリスの『ガーディアン』、フランスの『ル・モンド』、ドイツの『フランクフルター・アルゲマイネ・ツァイトゥング』、スイスの『ノイエ・チュルヒャー・ツァイトゥング(新チューリヒ新聞)』などの各紙は、反トランプの主張を鮮明にしています。アメリカの高級紙『ニューヨークタイムズ』、『ワシントンポスト』、週刊誌の『ニューズウィーク』もトランプ大統領を批判する記事を掲載してはいますが、ヨーロッパの論調に比べるとかなり大人しいのです。メディアにおける“米欧分断”は明らかであり、これは政治の世界を反映していると考えられます」

トランプ=ヒトラー論

 佐瀬氏によると、トランプ大統領が最初に政権を担った2017年から2021年の段階で、ヨーロッパの有力メディアはトランプ大統領が「ヒトラー」や「ナチ」を連想させるという記事を精力的に報じていたという。

「ヨーロッパの高級紙がトランプ大統領とヒトラーを重ね合わせる報道を行ったのは、ヒトラーがヨーロッパの秩序を破壊したことを想起させるからです。さらに2期目のトランプ政権がスタートしてから、ヨーロッパの高級紙は再びヒトラーやナチといった単語を使った記事を精力的に報じています。引き金となったのはトランプ大統領の側近であるイーロン・マスク氏が1月20日、集会でナチスの敬礼に類似したジェスチャーを行ったことです。またトランプ大統領が以前に顧問として重用していたスティーブ・バノン氏も2月20日にナチスの敬礼に似た動作を行いました」(前出の記者)

 例えばイギリスのガーディアンは、トランプ大統領の再選にアメリカのネオナチが大喜びする姿をリポートした。

 トランプ政権が重視する不法移民対策を、ネオナチは人種差別の文脈で強く支持。彼らは反ユダヤ主義も標榜しているため、娘婿がユダヤ系というトランプ大統領は「ユダヤ人の孫がいる裏切り者」と批判してきた。だがガーディアンの記事によると、一部のネオナチはトランプ大統領の評価を好意的なものに変えつつあるという。

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