奈緒演じる“ミドリ髪の警察官”が外国人に手を差し伸べる “多国籍社会ニッポン”描くドラマ「東京サラダボウル」レビュー
自宅から徒歩圏内に外国人が経営する飲食店がたくさんある。タイ、ベトナム、ミャンマー、ネパール、ウズベキスタン、台湾、中国。さまざまな国の人が日本に根を張って生きていると実感する。と同時にコンビニの店員や老人ホームの職員など、マルチタスクでややこしい仕事もキツい仕事も外国人に頼り切っていることも痛感する。感謝の念しかない。いつか見限られて見捨てられるだろうとも思う。
都会では身近な話だが、ドラマの主軸としてはあまり描かれず。と思っていたら満を持してNHKが制作、「東京サラダボウル」である。
日本にいる外国人の諸事情を、警察官と警視庁の行政職員である通訳の目から見つめる物語。幼少期、在日韓国人一家に親しくしてもらった経験があり、外国人に対して垣根も壁も作らない、フラットな刑事・鴻田(こうだ)麻里を奈緒が演じる。署内でレタス頭と呼ばれるゆえんは髪の色。ネオングリーンに染めた髪はとうてい警察官には見えないが、警戒されにくい利点もある。
警視庁・通訳センターに勤める中国語通訳・有木野了(ありきのりょう)を演じるのは、松田龍平。ワケあって刑事を辞職、通訳となったのだが、心根のまっすぐな鴻田と出会ったことで、自分の過去とも向き合っていく模様。この二人がバディを組むわけではないが、自然と信頼関係を築いていく様が描かれる。
前半はトラブルや犯罪に巻き込まれる外国人に、二人が手を差し伸べる事例で展開。中国人女性が巻き込まれた薬物事件に、スリランカ人が唆(そそのか)された窃盗事件、日本人の戸籍売買が招いた赤子誘拐事件で罪の意識に苛まれた善良なる中国人と、背景に組織犯罪の匂いがする案件が多い。どうやら人身売買を手がける謎の男(絃瀬聡一)の暗躍もあるようだ。介護施設で働くベトナム人(Nguyen Truong Khang)と日本人(黒崎煌代)の友情もアシストする鴻田。日本のテレビ報道では、外国人の犯罪やオーバーツーリズムを強調しがちだが、その陰に、実は外国人が巻き込まれて被害者となるケースもある、と教えてくれる。
中盤で鴻田と有木野に奇縁があることも判明。鴻田の命の恩人で、警察官を目指すきっかけを与えたのは、有木野がかつて愛した織田覚(中村蒼)だった。なるほど、そうきたか! しかも、有木野が刑事を辞める理由を作った張本人・阿川博也(三上博史)が復帰して、鴻田のバディとなる運び。奇縁というか、因縁の方向へ。
多国籍社会ニッポンのリアルな事件簿も興味深いが、主な人物たちの因縁エピソードが絡み合ってきて、より一層面白みが増してきた。
また、警察の通訳というお仕事ドラマとしての新しさもある。四字熟語やことわざを多用するため、通訳泣かせの刑事(皆川猿時)や、外国人に対して差別的な刑事など、視点の異なる警察モノとして楽しんでいる。
初回から特色のある作品だったが、三上博史の出番待ちで原稿に書くのが遅くなった。三上の登場で、奈緒は温厚なまま、龍平は冷静なままでいられるだろうか。不協和音を愛でる。