このままでは終われない…!プロテクトしなかった“放出球団”を結果で見返した「人的保障の星」選手列伝

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 巨人にFA移籍した甲斐拓也の人的補償として、右肘のトミー・ジョン手術を経て、昨夏に支配下復帰した伊藤優輔がソフトバンクに移籍した。2000年代には赤松真人(阪神→広島)、福地寿樹(西武→ヤクルト)、2010年代には一岡竜司(巨人→広島)が移籍先で大きく花開いた成功例として知られるが、直近10年間ではどうか。2015年から昨年までの人的補償選手の“その後”を振り返ってみよう。【久保田龍雄/ライター】

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移籍で花開いた田中正義投手

 近年で最も成功したと言えるのは、2023年に近藤健介の人的補償として日本ハムに移籍した田中正義である。

 5球団競合の1位指名を受け、“黄金ルーキー”と鳴り物入りで17年にソフトバンク入りも、1年目から故障が相次ぎ、実働4年、登板43試合の通算0勝1敗2ホールドと伸び悩んでいた。

 前年最下位に沈んだ日本ハムは、先発投手の防御率はリーグ3位の3.26ながら、救援投手の防御率は最下位の3.86とあって、計算できるリリーフ投手の補強が急務だった。

 そんなチーム事情から白羽の矢を立てられた田中は、23年は中継ぎとして開幕を迎えたが、石川直也の故障離脱により、抑えに抜擢されると、新守護神として2勝25セーブ8ホールドをマーク。昨季も自己最多の53試合に登板、4勝20セーブ12ホールドを記録し、6年ぶりのAクラス入りに大きく貢献した。

 23年4月26日のオリックス戦でプロ初セーブを挙げた試合後のお立ち台で、本拠地・エスコンフィールドの「最高の景色」に感激し、「これから何十回、何百回と見られるように頑張りたい」と誓って以来、着々と実績を積み上げ、今季は9年ぶりVのキーマンに。環境が変わって確変した典型例と言えるだろう。

FA権取得後も「楽天残留」を選択

 ロッテの中継ぎとしてフル回転していたにもかかわらず、プロテクトから外れ、思いがけず新天地に移ることになったのが、2020年に美馬学の人的補償で楽天に移籍した酒井知史である。

 2016年にドラフト2位でロッテ入りした酒居は、2年目まで主に先発を務めていたが、19年はリリーフでチーム3位の54試合に登板、最速150キロの速球を武器に5勝20ホールドを記録した。だが、勝ち試合にも多く貢献していたにもかかわらず、プロテクトから外れてしまう。

 一方、楽天はロッテから涌井秀章をFAで獲得し、美馬の穴を埋めたものの、抑えの松井裕樹が翌年から先発に転向することが決まり、リリーフ陣の層を厚くする必要に迫られていた。

 そして、「縦の変化もありますし、真っすぐもスピード以上のものがある。若いですし、フォークボールが使える。うちにはフォークを投げる投手がそこまでいない」(石井一久GM)という理由から、酒居が選ばれた。

 かくして楽天の球団創設後、人的補償の移籍第1号になった酒居は、5年間中継ぎの柱として安定した成績を残し、昨季も8月以降16試合連続無失点を記録するなど、登板49試合で2勝26ホールドを記録した。

 シーズン中にFA権を取得した酒居は、行使すれば、人的補償選手では2015年オフの西武・脇谷亮太(古巣・巨人に復帰)以来、史上2人目の“逆転FA”になるところだったが、結果は残留。「優勝したいというのが僕の中では本当に強いので、優勝に貢献できるようにしたい」と誓いを新たにしている。

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