「冷えた夫婦関係のままでというのも酷…」と語る52歳不倫夫 彼の価値観を変えた“2つの重大事件”とは

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ぐっと惹かれる女性

 それでも30歳前後で少しずつ結婚していく友人知人が現れる。彼らの家に遊びに行くと、結婚もいいものだなと思えた。29歳のとき、仕事関係のパーティで少し話しただけでぐっと惹かれる女性に出会った。

「どこが好きかと言われてもわからない。すべてが好きだった。まず全体の雰囲気、彼女が醸し出す空気、そして声のトーン、話し方、笑顔。すべてが素敵だった。この人をもっと知りたい、この人と一緒にいたい。そんなシンプルな気持ちがどんどん強くなって、パーティが終わるころには『このホテルのバーで、少し飲みませんか』と誘ってしまいました。バーでは仕事から趣味の話まで、なんだか気が合って盛り上がって。今度、食事でもどうですかと誘ったら、頷いてくれて。次の日にプライベートな連絡先にアクセスしましたよ」

 これが恋なのか、こんなに不安で、でもこんなに心弾んで、自分が自分でいられなくなる感覚を、彼は初めて味わった。彼女の名前はユリさん。彼は花屋でユリの花を見ただけで心臓が高鳴るのを感じたという。

「半年以上、濃密な時間を過ごしました。仕事以外のすべての時間を彼女と過ごし、彼女のすべてを知りたくて、でもわからなくてイライラしたり。彼女の心の中にはバリアがあって、それ以上、踏み込めない。言葉と心が違う、そんな気がしていました。それなのにユリと体を重ねていると、これ以上ない幸福感に満たされる。仕事だけはなんとか平均点をこなしていましたが、それ以外は心ここにあらずでしたね」

彼女の秘密を知って

 同い年のユリさんは、仕事ができる人として評判だったらしい。だが、彼の会社にも彼女の噂が飛んでくることがあった。

「彼女と仕事で取り引きをしている同僚によれば、どうも最近、彼女が浮ついていると。仕事で思わぬミスをすることもあったようです。ユリも僕への恋心でそうなっているのかなとうれしい半面、お互いに仕事でミスをしたらいけないことだけは確認しておかなければと考えていたら、同僚が『ダンナとうまくいってないのかな』って。後ろから殴られたような気がしました」

 彼女の心にあと一歩、踏み込めなかった理由がつかめた。彼はすぐに彼女に連絡をとって会った。単刀直入に「結婚してるってほんと?」と尋ねた。

「ごめんねと彼女は泣き崩れました。『あなたが好きでどうしても言えなかった』って。それなら離婚して一緒になろうと言いましたが、離婚はできないと。なんでも彼女の親が夫の世話になっているとかで……。『私が好きなのはあなただけ。それは本当』って。彼女の涙を見て、僕まで泣いてしまいました」

 だが彼は断腸の思いでその関係を絶った。未来のない関係を続けていても意味がなかったからだ。その後、ユリさんが仕事を辞めたと聞いたが、彼は何のアクションも起こさなかった。

 もういっそ恋愛などせずに結婚してしまおう。無理にでも結婚してしまえば、恋愛なんかで悩まずにすむ。彼はそう思ったと言った。

 ***

 親友の死、そしてユリさんの秘密を知ったことで、朋宏さんの価値観は大きく揺さぶられた。そんな彼が不倫の道へ走るようになった経緯とは。【記事後編】で紹介している。

亀山早苗(かめやま・さなえ)
フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。

デイリー新潮編集部

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