「費用は合計で6万円弱」「視力は左右1.2に」 作家・松田美智子が明かす「白内障」手術体験記 多焦点レンズ手術を受けた水谷豊も「近視、老眼、乱視だったがうそのように楽に」
まばゆい光で何をされているか分からない
手術室には車椅子で運ばれた。ドアの前で、名前と生年月日を聞かれ、今日はどちらの眼を手術するのか確認される。
車椅子を下りて椅子の形をした手術台に座ると、背もたれが倒され、顔を横に傾けた状態で右目の消毒が始まった。体の力を抜いていたつもりだったが、無意識に拳を握りしめていた。
手術を担当する医師から「では始めます」と声がかかり、仰向いた顔にドレープと呼ばれる穴開きのフィルムが貼りつけられる。
ここから麻酔が追加されたあとは、開瞼器(かいけんき)などが使用されたはずなのだが、まったく感覚がない。
上を向いた状態で見えるのは強烈にまばゆい光と、その中心にある二つの点だけだ。
「その点を見たまま眼を動かさないように。ああ、上手ですね。いいですよ」
なるほどと思ったのは、あまりにまばゆい光を当てられているので、何をされているのか分からないということだ。メスも見えないので、恐怖を覚えずに済む。
シュウシュウと断続的に機械音が聞こえるのは、超音波吸引の機械を医師がフットスイッチで操作している音だろう。そして数分後。
「大きな濁りが取れたので、残りは細かい濁りだけです。順調ですよ」
壊れた万華鏡のような光景
作業を続けながら、医師が「レンズを下さい」と助手の看護師に声をかける。
この間に私が見ていたのは壊れた万華鏡のような光景だ。二つの点はいつのまにか消え、ピンク、ブルー、ホワイト、レッド、シルバー、ブラックなどさまざまな色が次々と現れ、混じり合う。
「あと30秒で終わります」
折り畳まれた柔らかなレンズが挿入される瞬間もその感覚がなかった。
「レンズが入りました。うまくいってますよ」
手術では水晶体嚢を切開しているのだが、通常、縫合はしない。傷口が2~3ミリと小さいので、角膜に水を当てることで浮腫(むく)みを促し、傷口を閉じる。つまり、角膜を水でふやかすことで傷口を塞ぐのだ。
「最後に入れる化膿止めは、少し刺激があります」
手術中には注射針も使用されたはずだが、なにせ見えないので、なにがどうなっているのか想像もできず、術中、術後に痛みを味わうこともなかった。
「力んだりしないでね。レンズが飛び出すから」
まもなく、ドレープが引き剥がされ、続いてガーゼ、膨らみのあるプラスチックキャップが右目にテープで固定された。市販されている眼帯を想像していたのだが、まったくの別物だった。
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