「費用は合計で6万円弱」「視力は左右1.2に」 作家・松田美智子が明かす「白内障」手術体験記 多焦点レンズ手術を受けた水谷豊も「近視、老眼、乱視だったがうそのように楽に」 

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次々と想定外の出来事が

 それから10年が経過し、昨年75歳で後期高齢者の仲間入りをしたときには、右目の視力が0.6、左目は0.8まで落ちていた。

 白内障の症状が進行しており、日中はいいのだが、日暮れ時には、辺りの景色がぼんやり曇って見える。

 以前より医師からは「視力が0.6まで落ちたら、手術を考える時期」と言われていて、また、眼鏡をパソコン用、テレビ用、読書用と分けてそろえるのが面倒になっていたこともあり、視力回復のためにも、手術を受けることにした。

 白内障手術は、70代で経験する人が最も多く、年間の手術件数は150万件以上。高齢化とともに、増え続けているという。

 手術を決断した後は、どこで受けるかだが、ほとんどの場合はかかりつけの病院が紹介してくれる。

 私もクリニックで紹介状を書いてもらい、一番近くの総合病院で、日帰り手術を受けることにした。まずは右目を手術し、様子を見ながらいずれは左目も、という予定だった。

 しかし、私の予定はことごとく覆された。想定外のことが次々に起き、変更を余儀なくされたのだ。

4本分の採血

 それは受診の予約を取る時から始まった。総合病院は地域一帯から多くの患者が集まるせいか、予約が取れたのは10日後の午前9時のみ。受診当日、予約時間から1時間が過ぎて名前が呼ばれたのだが、担当となった医師から、予想外のことを告げられる。

「右目だけでなく、左の視力も落ちているのだから、この際、両目の手術をしたらどうですか」

 しかも、最初に右目の日帰り手術をしてから1週間置き、次に左目の手術をというわけではなく、2泊3日の入院で左右の手術を続けて行うという提案である。

 躊躇(ためら)っていると、返事は次回でいい、と言われた。

 医師との対話は5分で終わり、待合室で看護師さんの問診を受けることになった。最初に確認されたのは、現在、誰かに介護されているかどうかだった。高齢者には必ず聞く質問らしい。もし認知症の症状があれば、手術に困難が伴うからだと、後日教えられた。

 2週間後に再び病院を訪ねた際もまた、予想外のことが起きた。当日は目の検査をすると思い込んでいたのだが、採血、レントゲン、心電図、尿検査など全身の検査が待ち受けていたのだ。これらの検査で引っかかると、手術を断られることもあるという。

 検査で一番時間がかかったのは採血だった。

「検査項目が多いので、今日は(採血管で)4本分の採血をします」

 当日の診療明細書を確認したところ、検査は26項目あり、血液検査の中には梅毒の血清反応まで含まれていた。糖尿病や腎臓病、心臓病、肝臓病などの病歴といった全身の健康状態とともに、感染症の有無を調べることが重要だと分かる。

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