「新入社員」も「バブル入社組」も“給与増”なのに「氷河期世代」だけがワリを喰う残酷な現実…高齢者になっても報われない“悪夢の世代間格差”とは

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ITスキルの影響

 ITジャーナリストの井上トシユキ氏は「氷河期世代への冷遇は様々な要因が考えられますが、その中の1つとしてITスキルの有無が挙げられると思います」と言う。

「信じられないという人も少なくないでしょうが、大企業に勤めていてもワードやエクセルですら充分には操作できないという50歳の社員は存在します。彼らが30代や40代の頃は企業に余剰人員を雇用する余裕がありました。部下に『資料の表を作ってね』、『プレゼンのパワポを頼む』と指示すれば済んだのです。今のオフィスはIT化が進み、1人でパソコンを使って仕事をすることが増えました。時代の変化に対応できなかった氷河期世代の社員は給与を下げられ、それでも改善しない場合は会社からリスキリング(再技能取得)を命じられることが増えています」

 リスキリング研修は、人材派遣や教育関係の企業などが開催している。一部の研修講座は40代から50代の“氷河期正社員”で盛況だという。

「実は40代から50代のリスキリングは退職勧奨の前段であることも多いのです。研修を受けても改善が認められない場合は閑職に回され、最後は早期退職者制度を申請させられることになります」(同・井上氏)

“絶対数”が乏しい氷河期社員

 一方で相応のITスキルを持ち、“プレイングマネージャー”として自分も働きながら部下も管理するという激務をこなす氷河期世代もいる。

「ところが、一部の企業は50代前半から役職定年などを設定し、管理職の肩書を外して給与を下げてしまいます。これに抗議したくても氷河期世代の社員は社内で“発言権”が弱いのです。何しろ採用を減らした時代ですから社内では少数派です。企業側には『氷河期世代の給与を上げると、社会保険料の会社負担が増える』という本音もあります。こうして40代と50代の給与だけが低く抑えられているのです」(同・井上氏)

 だが不思議なのは55歳以上も優遇されていることだ。彼らの大半は「1965年から69年に生まれた」というバブル世代だと考えられる。就職活動では複数の内定をもらうことが当たり前だったという極めて恵まれた世代だが、氷河期世代よりITスキルが秀でているとは考えられない。

「バブル期は企業が採用者を増やしましたから、今でもバブル世代は社内で多数派を形成しています。となると会社での発言権が大きいのは自明の理でしょう。まず企業は新卒社員を獲得し、20代の社員が辞めないよう給与アップを実現します。その次はバブル世代にも振り分けます。ここで人件費は底を突くでしょう。その結果、社内で数が少なく発言力の弱い氷河期世代の給与は据え置きか下げられるというわけです」(同・井上氏)

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