【映画「敵」長塚京三インタビュー】“独居老人”が主人公の異色作が大ヒット 「同年代の友人から“いい仕事したな!”と言われました」

エンタメ 映画

  • ブックマーク

「いい仕事したな!」

 長塚さんの〈敵〉についての解釈は、やはり、この年齢ゆえに感じ、気づいた点が多いようだ。

「ぼくらの世代は、いつか、こういう目にあうような気がするんです。コンプライアンスというか、法令尊守があったはずなのに、それを無視して生きてきた面がある。すると、いままで味方だと思っていたものが、実はそうではなかったことに、ようやく、この年齢になって気づく。それが〈敵〉なのではないでしょうか。一種の復讐かもしれません。それでもあがいて、あきらめようとしない。そうなると、最期のとどめを刺しにやってくるのが、〈敵〉のように思います」

 実は、長塚さんが、この映画のような高齢者や、大学教授を演じるのは、今回が初めてではない。

 1994年、舞台「オレアナ」(デイヴィット・マメット作、西川信廣演出)でも、大学教授を演じた。相談に乗っていたはずの女子大生(若村真由美)が、突如、教授をセクハラで訴えてくる。まさに〈敵〉に追い詰められる2人芝居である。読売演劇大賞・優秀作品賞を受賞し、1999年には、永作博美との共演で再演もされている。近年話題の、セクハラ・パワハラ問題を先取りした、舞台俳優としての長塚さんの代表作だ。

 また、2006年には、名作舞台「黄昏 On Golden Pond」(アーネスト・トンプソン作、髙瀬久男・板垣恭一演出)で、当時61歳の長塚さんは、79歳の元教師を演じた(共演は八千草薫)。映画で、名優ヘンリー・フォンダが演じていた役だ。高齢ゆえ身体も弱って、時折、認知症のような〈敵〉に襲われる。それを超えて、家族三世代が絆をとりもどす物語である。

「たしかに、舞台などで、教授や高齢者を演じてきました。しかし、今回の『敵』の場合は、実際に〈敵〉に襲われ、ひどい目にあいながらも、それでも生きようとする執念や実感を漂わせている、そこが面白いというか、この映画の独特な魅力だと思います」

 2月15日、長塚さんは、満席がつづくテアトル新宿で、吉田大八監督、共演の黒沢あすかとともに、大ヒット記念舞台あいさつに立った。そこで長塚さんは、こんなあいさつで、客席をわかせた。

「ぼくは、ずっとおなじ地域に住んでいるので、近所に同年代が多いんです。この映画に出て以来、外で彼らとすれちがうと、初めて『よっ!』と手を振ってくる。そして『いい仕事したな!』なんていってきた友人もいる。今回は、共演者や監督、スタッフのみなさんに助けられました。とてもいい仲間、作品に出会えたと思っています」

 映画「敵」は、東京都内では、2月後半の時点で、7か所の映画館での上映がつづいている。

映画「敵」全国公開中
【写真】(C)1998 筒井康隆/新潮社 (C)2023 TEKINOMIKATA
宣伝・配給:ハピネットファントム・スタジオ/ギークピクチュアズ

森重良太(もりしげ・りょうた)
1958年生まれ。週刊新潮記者を皮切りに、新潮社で42年間、編集者をつとめ、現在はフリー。音楽ライター・富樫鉄火としても活躍中。

デイリー新潮編集部

前へ 1 2 3 4 次へ

[4/4ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。