【映画「敵」長塚京三インタビュー】“独居老人”が主人公の異色作が大ヒット 「同年代の友人から“いい仕事したな!”と言われました」

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料理シーンも自分で

 公開から1か月を過ぎたが、映画「敵」(吉田大八監督)は、相変わらずシニア層を中心に、満席の回が続出している。ロングランの気配が濃厚になってきた。

 原作は今年90歳の筒井康隆さん(新潮文庫版)。昨年秋の第37回東京国際映画祭で、東京グランプリ/東京都知事賞、最優秀監督賞、最優秀男優賞の3冠を獲得した話題作だ。定年退職した77歳の元大学教授の、“おひとりさま”の日常と最期を、ユニークなタッチで描いており、「名作老人映画の誕生」の評もある。

「まさか、こんなに多くのお客様に来ていただけるとは、思ってもいませんでした。うれしいです」

 と、照れながら語る主演の長塚京三さんは、いま79歳。劇中の元大学教授と、ほぼ同年齢である。今回、大ヒットにあたって、単独インタビューに応じていただいた。

「ぼくも長く俳優をやってきて、この年齢になりましたから、こういう役がいつか来るだろうなとは、思っていました。それだけに、ああ、ついに来るものが来たなあ、という感じでしたね」

 吉田大八監督は脚本も担当しているが、執筆中は、特定の配役はイメージしていなかったそうだ。書き終えてから、長塚さんにオファーを出したという。

「シナリオを読んでから、あらためて筒井さんの原作小説も読んでみました。すると、あの小説には、実にたくさんのテーマやモチーフが詰め込んであるんですね。それらがうまく取捨選択されており、それでいて、ちゃんと原作に忠実な流れになっている。よくここまでまとめたなあと、感心しました」

 主人公の元大学教授は、フランス近代演劇・文学が専門である。妻(黒沢あすか)に先立たれ、子どももいない。時折、講演や原稿執筆をこなし、むかしながらの日本家屋で暮らしている。生活ぶりは意外と清潔で、ていねいだ。料理から洗濯、掃除など、すべてをひとりでこなしている。それなりに“終活”的なことも考えている。

「料理のシーンで、何度も調理中の手もとがアップで映りますが、あれも全部、ぼくです。それほど大変でもなかったですよ。レバーを切って、牛乳に漬けて血抜きをするシーンは、ちょっと気持ち悪かったですが、楽しかったです(笑)」

 物語の大半は、この家のなかで進行する。撮影は、一般民家を借りて、おこなわれた。

「古い家で、相応の広さはあったのですが、それでも、カメラや照明など、多くの機材を持ち込みますから、最終的にはたいへん手狭になり、スタッフは苦労したと思います。古い家ですから、天井も低く、階段も狭いですしね。ぼくはずっと出ずっぱりで、決してラクではありませんでしたが、ほかの出演者やスタッフが助けてくださり、大きな苦労はありませんでした」

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