ネット炎上の主役が「素人」から「有名人」に回帰した理由…なぜネット炎上はいまだに“テレビが起点”なのか

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結局テレビの情報が人気

 ここ最近の最大級のネット炎上案件といえば、女性関連問題の報道を契機とした松本人志氏、中居正広氏の件だろう。また、芸人のやす子に対してXで「死んでくださーい」と誤爆引用リポストしたフワちゃんの件も記憶に新しい。これまでは、ネット炎上といえば、一般人の“やらかし”が大半だったが、最近は芸能人が増えている。これは結局ネットの影響力が、いまだに既存の大手マスメディア以下であるということの表れではないだろうか。

 私(中川淳一郎)は元々2009年に出版した『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書)で、テレビの影響力にネットは勝てない、と述べた。この分析の真意は以下の通りである。

「結局テレビに登場する有名人の話題を人々は欲しているし、ネットでもその話題をする。いくらネットが発達しようともネット発の情報よりは、テレビが報じたものが実生活に影響するし、人々はネットでテレビの話題をする」

 だからこそテレビに頻繁に出ていた松本氏、中居氏、フワちゃん、やす子の話題は盛り上がった。テレビが週刊誌のスクープとネット上の炎上を含めた話題を取り上げ、ますます火を点ける構造は確立されている。また、テレビは、大谷翔平のことを取り上げる頻度も高く、それに関連した「愛犬の名前はデコピン」「通訳の水原一平が大谷の口座からカネを取った」「大谷の妻・真美子さんのドレスがステキ」といった補足情報を何度も何度も報じる。するとこれらがネットに還流され、話題が膨れ上がる。もちろん大谷の場合は炎上ではないが、やはりテレビ情報がネットでも人気なのだ。

素人が炎上する場としてのネット

 昨年も米の価格が高騰し、スーパーの棚から消えたことをテレビが報じると全国的に米の買い占めが発生し、「令和の米騒動」になった。8月に巨大台風が首都圏に接近している、これはヤバいです! とテレビが報じたらコンビニでミネラルウォーターやおにぎり・弁当類が軒並み売り切れに。とにかくテレビに人生の判断を委ねる人が多過ぎる。そして、それが結果的にネット炎上に発展する。

 しかし、思い出してほしい。2000年代前半から2010年代にかけ、ネットというものは、テレビのネタではなく、素人が炎上する場所だった。もっとも、テレビの影響力は当時からあったものの、今ほどではなかった。そうだった理由は元々ネットが好きな「非テレビ視聴者層」がネット上の論調・空気に影響を与えていたからであろう。テレビ情報に特に興味は持たず、ネットで失言をしたり、愚行を自慢げに紹介したりする人々に対して私的制裁するべく、「特定」をするほか炎上を誘発させていた。

 日本最初の大規模炎上とされるのは、2003年の「JOY祭り」である。「JOY」と名乗る掲示板管理人の女性が居酒屋に行ったところ、彼女の幼い娘が店内を走り回り、店員は娘に、その態度の悪さを注意した。それを娘から聞いたJOYはその場に同席した夫と弟とともに店員を並ばせる。そして娘が「この人に注意された」と証言した店員に対して夫と弟が暴力行為を――。この一連の顛末を JOYは自慢げにネットで報告したのである。そこから彼女の特定が開始され、JOYは掲示板を削除した。

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