エリザベス女王の夫「フィリップ殿下」の「大喪の礼」参列はなぜ物議を醸したのか…戦争の傷跡を超えて紡がれ続ける皇室と英国王室の絆

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一刀両断にできないイギリス

「イギリスは階級があるし、身分の違いもあり、国民の考え方にもばらつきがある。米国ではこれでいいとなるとコンセンサスが取り易いのですが、イギリスでは一刀両断にできない。それに英国人は昔を引きずるところがある。サッチャー首相が来なかったのも、国内の複雑な感情を読んで、ということなのでしょう。

 ですが、サッチャー女史が来なかったことは、世界における日本の位置をどう評価するか誤ったようにも思えます。ブッシュが来、ミッテランが来るなか、エジンバラ公とハウ外相で大丈夫と軽く考えたかどうかはともかく、ちょっと判断を誤ったという気もしますね」

 と話すのは、元国連大使の加瀬俊一氏。

 ユーゴのチトー大統領、ソ連のチェルネンコ書記長の葬儀には出席し、弔問外交で成果をあげたサッチャー首相。なぜ、大喪の礼に限って、という印象はどうしても拭えない。サッチャー首相欠席について、英国の高級紙「タイムズ」(2月24日付)社説はこう指摘している。

「首相が欠席したことで、日本に誤ったシグナルを送ってしまったかもしれない、という考えも当然出てくるだろう。昭和天皇に対する見解ではなく、英国がどれほど真剣に日本を考えているかということである」

 が、こうした声を圧してしまう国民世論、戦争の傷跡がいまだに残されていることも事実なのである。

(「週刊新潮」1989年3月9日号「『大喪の礼』異聞 天皇『レセプション』を欠席したエジンバラ公」より)

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異例だった両陛下の葬儀出席

 大喪の礼から36年、近年は英国王室でも忘れられない葬儀が続いた。

 2021年4月9日に死去したフィリップ殿下の葬儀は、17日にウィンザー城で執り行われた。コロナ禍のため参列者は近親者と友人のみ。柩を運んだグリーンの改造ランドローバーやカメラマン用のカモフラージュボックス、説教と弔辞の省略、随所に現れた英国海軍と海への思いなど、フィリップ殿下みずからが決めた詳細は「らしさ」にあふれていた。

 ギリシャ王族に生まれたがクーデターによって亡命生活に入り、紆余曲折を経て英国海軍の軍人、さらには君主の配偶者となったその人生はまさに激動。英国王室の一員となってもアイデンティティに関する苦悩は続いたが、この葬儀は困難と苦悩で強さを磨いたフィリップ殿下その人を見事に表していた。追悼記事の多くは生前の失言騒動などに触れつつも、率直で豪胆なフィリップ殿下だからこそ、エリザベス女王とロイヤルファミリーを支える最も大きな存在になり得たと伝えていた。

 そんなフィリップ殿下が大喪の礼に参列していた。軍人として迎えた1945年9月2日、すなわち日本政府が戦艦ミズーリ号で降伏文書に調印した日は、近くに停泊中の英駆逐艦に乗船していたというエピソードには偶然を超えるなにかが感じられる。

 フィリップ殿下の死去に際し、皇室では天皇陛下がご弔電を発するなどした。そしてその翌年、2022年9月19日に執り行われたエリザベス女王の葬儀では、皇室の慣例からして異例とされる天皇皇后両陛下の参列が実現した。その背景には、エリザベス女王から招待を受けていた英国訪問がコロナ禍で実現できなかったことなどがあるという。

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