「ヘルペス感染者の認知症発症リスクは2.6倍」 アルツハイマー認知症の原因「ヘルペスウイルス説」を検証

ドクター新潮 ライフ

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「70歳を過ぎても接種した方がよい」

 では、現時点で得られた研究成果を、実際に私たちがアルツハイマー認知症の予防に生かすことは可能なのだろうか。

「早期のアルツハイマー病になった人が抗ヘルペス薬を飲み続ければ悪くならない可能性はありますが、認知症の治療が目的の薬ではないので、一生飲み続けることはできません。ある程度の期間が経過すればやめざるを得ないでしょう。治験では1年半ですね。投薬を続けている間、ウイルスは増殖しませんが、やめると再び活性化して認知障害が進みます。今のところ、現実的なのは帯状疱疹ワクチンです。先述の英国ウェールズでの研究では、70歳を超えていても症状が出る前にワクチンを接種すると発症が2割抑えられています」

 2021年にアメリカでも同じような調査がされ、英国の結果以上の効果があったという。

「平均寿命が50歳代だった昔は、認知症の人はほとんどいませんでした。高齢社会になって急激に増えたのですね。90歳を過ぎると半数がアルツハイマー認知症です。それを考えると、早めに帯状疱疹ワクチンを打った方がいいですね。70歳を過ぎても接種した方がいいのはもちろんですが、できるなら50歳を過ぎたら接種することをお勧めします」

 もちろん松下氏もすでにワクチンは接種済みだ。

80歳以上のアルツハイマーは老化?

 松下氏が著書で紹介した論文などを読む限り、単純ヘルペスウイルスがアルツハイマー認知症の発症に関わっていることは十分に推定できる。なお、私自身は多くの重度認知症高齢者に話を聞いた経験から、80歳以上のアルツハイマー認知症は病気ではなく、寿命が延びたゆえの脳の老化が主要な原因ではないかと思っている。その理由の一つが、60歳から70歳代前半まではアルツハイマー認知症の有病率が数%なのに、80歳代になるといきなり20~40%台になり、90歳以上は60~70%台と、すさまじい勢いで増加することだ。特定の年齢層の半数以上がかかる病気なんてあり得ないだろう。

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