「ヘルペス感染者の認知症発症リスクは2.6倍」 アルツハイマー認知症の原因「ヘルペスウイルス説」を検証

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ワクチンを接種するなら50歳代

 この報告では、男性に差はなかったのだが、「他の報告で男性も発症が抑えられることが確かめられました」と松下氏は言う。

「2021年から23年にかけて英国や米国の施設など4カ所で帯状疱疹ワクチンを接種した群と接種しなかった群を追跡調査しています。接種したのは、高齢者が帯状疱疹を発症すると神経痛の後遺症が残ってひどくなるからです。結果は、接種した方はアルツハイマー認知症の発症が有意に少なくなっていました。ただ接種年齢が高かったせいか、結果は貧弱(ハザード比が0.65~0.91)でした」

 ハザード比が0.65なら決して「貧弱」とは思えないのだが……。

 これらのデータを背景に、ワクチンを接種するならアルツハイマーを発症する前の50歳代がいいと松下氏は言う。

「アルツハイマーを発症する前ならワクチンは効果的ですが、発症してからではワクチンの効果は弱いのです。発症後はやはり抗ウイルス薬でウイルスの増殖を抑えることです」

抗ウイルス薬を使った治験

 ところで、「ヘルペスウイルス原因説」の大半は疫学的な証拠によっているのだが、現在はさらに研究が進み、抗ウイルス薬を使ったこんな治験が行われているという。アメリカ国立老化研究所(NIA)が2018年から5年間、早期のアルツハイマー認知症の人たちに抗ウイルス薬(バラシクロビル)を投与して認知症の症状がどう進行するか、第2相試験をしたのだ。

「中間報告によれば、プラセボ(偽薬)群は78週(1年半)で認知機能が15%低下しましたが、抗ウイルス薬を服用した群は低下が見られませんでした。PET検査(陽電子による断層撮影)でも有意差が認められ、第3相試験に進む成績が得られたようです。おそらく今年中に結果が報告されるはずです」

 被験者の多い第3相まで治験が進めば、抗ウイルス薬がアルツハイマーの治療薬になる可能性も出てくるだろう。アルツハイマー認知症の治療・予防はパラダイムが大きく変わろうとしているのかもしれない。そんな重大事がなぜ日本では報じられていないのだろう。

「知られていないのはアメリカも同じです。向こうでもアミロイドβや変異タウの研究記事ばかりが紹介されて、ウイルス原因説はほとんど出ません。それだけアミロイドカスケード仮説が根強く浸透しているんですね」

 松下氏は、アルツハイマー認知症はヘルペスウイルスが原因で発病することがほぼ確実であると考える理由として、著書で次のように記している。

(1)ヘルペスウイルスが引き起こす脳炎と、アルツハイマー認知症の病変部位が一致する。

(2)中高年者のほぼ100%が単純ヘルペスウイルスに感染している。

(3)アルツハイマー認知症の人の脳から単純ヘルペスウイルスが検出される。

(4)ウイルスは症状がなくても増殖し続け、ずっと後になって悪影響を及ぼす。

(5)疫学研究は抗ウイルス薬および帯状疱疹ワクチンで認知症を予防できることを実証している。

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