「ヘルペス感染者の認知症発症リスクは2.6倍」 アルツハイマー認知症の原因「ヘルペスウイルス説」を検証

ドクター新潮 ライフ

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70歳以上はほとんど感染

 各国の調査研究は、ヘルペスに感染している人はアルツハイマー認知症になりやすいことを示しているが、では感染者に抗ウイルス薬を投与して、ヘルペスの増殖を抑えればどうなるだろうか。

「台湾の追跡調査では、感染後に抗ウイルス薬の投与を受けた人(7215人)と、投与を受けなかった人(1147人)に分けて認知症になるリスクを比較しました。なんと、抗ウイルス薬を投与された人のハザード比が、投与されなかった人に対して0.092、つまり認知症になるリスクが10分の1以下にまで減っていたのです。これらのデータから、ヘルペスを抗ウイルス薬で治療すれば、認知症の発病はかなり抑えられることが分かります」

 その後、デンマーク、英国、ドイツ、スウェーデンなどで、同じように追跡調査(追跡年数は台湾より短い)をしたが、抗ウイルス薬を投与された人のハザード比が0.75~0.93と、有意な予防効果を示したものの、台湾の調査に比べると弱い数値だったという。今後、台湾以外から、長期にわたる疫学調査で台湾の数値に近い結果が出てくれば、「ヘルペスウイルス原因説」がより強固になっていくだろう。

 現在、50歳未満で単純ヘルペスウイルスに感染している人は、世界で38億人(64%)いるといわれる。日本人の感染率は、60歳未満で55%(男性)~63%(女性)だが、70歳以上はほとんど感染しているといわれる。

帯状疱疹ワクチンで予防は可能か

 先に松下氏も語ったように、ヘルペスウイルスは脳内に長い間潜伏しながら、静かに感染が広がって発症するのだが、残念ながら単純ヘルペスを予防するワクチンはまだできていない。現在存在するのは、皮膚などに赤い発疹や水疱ができて強い痛みを伴う帯状疱疹のワクチンだけである。ところが私たちの体はよくできたもので、「交差免疫」と言って、ウイルスや細菌の種類が違っても、抗原のたんぱく質の構造が似ていれば、抗体は同じように働く機能がある。では、帯状疱疹ワクチンでアルツハイマー認知症の予防は可能なのか。それを裏付ける研究があるという。

「英国のウェールズは台湾と同じで医療情報の電子化が標準化されている地域です。ここで1925年から42年の間に生まれた住民を選び、帯状疱疹ワクチンの接種を受けた群と接種しなかった群に分けました。その中から女性のグループをターゲットに2013年から7年間追跡調査をしました。すると、ワクチンを接種したグループは、接種しなかったグループに比べてアルツハイマー病の発症が19.9%も少なかったのです。この報告では、ワクチンを接種したのは70歳以上の人ですが、それでも、アルツハイマー認知症になる人が少なかったということは事実です。もし50歳ぐらいで接種していれば、より予防効果があったと思われます」

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