【べらぼう】小芝風花が妖艶に演じる「花の井」改め「瀬川」のシンデレラ物語と転落
親に売られた少女たちの「苦界」
今年のNHK大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』の登場人物のなかでも、強い存在感を放っているのは、小芝風花が演じる吉原遊郭の女郎、花の井だろう。この女優は演技によって大きく化ける。CMなどで見せる明るく健康的な表情とは打って変わり、変幻自在な妖艶さを表し、絶賛されている。
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この花の井が第7回「好機到来『籬(まがき)の花』」(2月16日放送)で、「瀬川」という名を襲名した。瀬川とは、花の井が属する老舗の女郎屋「松葉屋」の看板となる女郎の名跡。こうした名跡を襲名するときは『吉原細見』がよく売れるので、花の井は蔦重こと蔦屋重三郎(横浜流星)がはじめて自分の名で刊行する『吉原細見』がもっと売れるように、瀬川の名を継ぐことを決めた、という設定だった。
蔦重版の『吉原細見 籬の花』は、判型やレイアウトを変えたことで紙代その他が節約できたため、安く購入でき、なおかつ見やすく臨場感があったので、史実としても非常によく売れた。「べらぼう」では、蔦重は花の井改め瀬川に感謝した。
第8回「逆襲の『金々先生』」(2月23日放送)では、そんな瀬川の前に鳥山検校(市原隼人)なる盲目の大金持ちが表れる。そしてついには、吉原の看板のひとりである瀬川を「身請け」する。ちなみに、瀬川という花魁が鳥山検校に身請けされたのも史実である。
吉原から抜け出す唯一の方法
吉原の女郎たちは、女郎屋で「奉公」していることになっていたが、それは表向きで、現実には貧しい親たちによって、借金の担保として売り飛ばされていた。したがって、女郎屋は各女郎の「年季証文」をもっており、彼女たちは原則として、「年季10年」「27歳まで」は働く必要があった。このため吉原は「苦界十年」といわれたのである。
だが、そこで終わればいいほうで、生活費をはじめなにかと出費がかさんで、あらたに借金を背負うことも多く、そうなると、たとえ年季が明けても吉原から離れることは叶わなかった。
いや、そこまで命が持てばマシだったともいえる。女郎の職業柄、当時は不治の病だった(現実には、潜伏期間に入ると治ったと思われていたのだが)梅毒などの性病に感染するリスクは、きわめて高かった。吉原などの裏側を実地調査した往年の歴史学者、西山松之助の著書『くるわ』には以下の事実が記されている。「投げ込み寺」として知られていた浄閑寺の過去帳によれば、この寺に遺体が運ばれた女郎の享年の平均は22.7歳だった――。
そんな女郎たちにとって、年季が明ける前、そして病気で命を落とす前に、吉原からいわば合法的に抜け出す唯一の方法といえば、それは「身請け」だった。要するに、客が年季証文を買い取り、女郎の身柄を引き受けるのである。
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