「あの連中は、山岳アジトで12人を殺している」…「あさま山荘事件」の容疑者が長野県警の取り調べに打ち明けた“総括”という言葉の衝撃

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リンチ事件の発覚

 逮捕されて21日間、完全黙秘を貫いた女性容疑者は、警察に捕まると殴る・蹴るの暴行を加えられ、眠ることも許されないと、本気で信じていた。一言も発しない彼女に、取調官も留置場の看守も憎しみの目を向けることなく、毎日、同じように接した。22日目、彼女は「私の心の片隅に追いやられていた人間性が、とうとう我慢できなくなり、組織を裏切って全部話す気になりました」と言って、自供を始めたという。

 少年の被疑者に対して「俺は君らのお父さんと同年代だ。君らの思想についてはよく分からないが、やったことは社会の常識に照らしてみると間違っている。俺を父親と思い、何でも相談したいことがあったら話してみろ」と接したベテラン捜査員もいた。この被疑者は捜査員とすぐに打ち解け、事件について話を始めた。

 少しずつではあるが、進展する事後捜査の傍ら、長野県警幹部には一抹の不安があった。

 それは、残る赤軍メンバーの動向である。

 逮捕したメンバーを、武装した上で奪還に来るのではないか――その可能性は十分にあると考えられていた。それぞれの被疑者は、県内各署に分散留置されていたが、署の警備面も強化せねばならなかった。

 果たして、他のメンバーはどこにいるのか? 警察の山狩りを逃れてどこかの山中で息を潜めているのか……。その答えは意外なところからもたらされた。3月7日の昼ごろ、前出の北原氏のもとへかかってきた電話だった。

〈老練の堀内藤弥警部補から電話が入った。(略)「被疑者がえらいことを言い出した。俺はそんなことうそだろうと何回も聞きなおしたが、どうも本当らしい」。知能犯や暴力団犯罪を数多く扱ってきた堀内さんらしい静かな物言いだが、一緒に仕事をやってきた私は、彼が重大な案件があるときには務めて静かに切り出す癖のあることを知っていたので、性急に「また何か始まったの?」と聞き返した〉(前掲書より)

 堀内警部補は、こう返した。

「あの連中は、山岳アジトで12人を殺している。呼び名の赤城だとか、立山だとか言っているので本名を今確かめているが、総括云々と言っている」

 そもそも「総括」という言葉に、殺人につながる意味はない。本当か? そんな馬鹿なこと――当時の捜査幹部の受け止めは一様に「信じられない」というものだった。

 だが、他の被疑者にも同じようなことを聞いていくうちに、12人の同志殺害は嘘ではないことが分かる。

「これ本当ですか。ガセではないでしょうね」

 本庁(警察庁)の担当者は、何回も念を押した。

「3人の被疑者が同じことを言っています。群馬(県警に逮捕されてる)の被疑者にも聞いてみてください」

 群馬県警も確認を取った。その日の夕方には、「間違いない情報」として、後藤田正晴警察庁長官(当時)に報告が上がった。

「そんな、ばかな」

 と言ったきり、後藤田長官は黙り込んでしまったという。

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