アニメにNHK大河、話題の香港アクション映画まで…すごすぎる作曲家「川井憲次」の意外な素顔「普段は音楽のことを考えてないです(笑)」

エンタメ

  • ブックマーク

押井監督との仕事は意外と…?

 名監督たちが作り上げた渾身の映像から意図を読み取り、音楽を作る。音楽はもちろん映像に対する感覚、そして実際の制作テクニックがすべてハイレベルでなければ到底務まらないポジションだ。ファン目線で見ると、長編アニメーション「攻殻機動隊」シリーズの映画版2作などで組んだ押井守監督とは、苦労が多かったのではないか。

「押井さんの場合は楽器から入ってくるんですよ。『ベースのボーンと太鼓のドン』といった言い方をされて、『そういうのがベースになって作れないかな』と。例えば『スカイ・クロラ The Sky Crawlers』(2008年)は『ハープをメインにして作ってくれないか』。だから逆にハープさえ使っていれば、僕はそれを中心にアレンジしたり、ハープで弾きやすい音楽にしたりできるので、初めから全てのオーケストラをそろえて作るよりも作りやすいんです」

「GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊」(1995年)の「M01 謡I-Making of Cyborg」も、そうしたリクエストから始まった。太鼓の音とブルガリアンボイスを思わせる女性の声が、荘厳かつ神秘的な奥行きをつくり、聞く者を異世界に飛ばしてしまうような一曲だ。

「最初、押井さんからは『太鼓で』と言われたんです。作品がサイバーな世界だから、逆にプリミティブなものをもってきたらいいのではと思われたんでしょう。でも太鼓の音って、オーケストラに入れるとすぐ消えちゃうんですよ。マスキングされちゃうんですね。それに、リズムだけじゃ音楽的な表現が難しい。そこで『太鼓の上に何がのったら格好いいだろう』といろいろ考えた結果、ブルガリアンボイスがいいなと」

 ところが当時、ブルガリアで活動する専門の歌い手は、外部で書かれた譜面の通りに歌う依頼を受けていなかった。そこで川井氏は、アニメ「獣戦士ガルキーバ」の仕事でお囃子を依頼していた民謡の歌い手に声をかける。

「うちにお呼びして、簡単に作ったデモを歌っていただいたんです。それがすごくよかった。すごく格好よくて、押井さんに聴いてもらったら『これいいね!』と。でも、日本人でやるなら言葉は大和言葉にしようと決まって、それであの形態になったんです。とにかく行き当たりばったりなんですよ、すべてが(笑)」

次ページ:普段は音楽のことを考えていない

前へ 1 2 3 次へ

[2/3ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。