音楽を手掛けた“香港アクション大作”が大ヒット! 巨匠「川井憲次」が「結構キツかったですね(笑)」と語る納得の理由
音楽で表現できるもの
かつての九龍城砦は「悪の巣窟」とも呼ばれていた。あらゆる意味で「暗い」イメージがつきまとう場所だが、意外にも川井氏の音楽には大きな影響を与えていないという。
「九龍城砦に関してはあまり意識していないです。もちろん九龍城砦があった頃を見ていますが、中に入ったことはないので、むしろ中の人々の生活感など自分の知らなかった部分を音楽で表現できたらと思いました」
映画における音楽は「やっぱりナンバーツーだと思う」とも語る川井氏だが、音にしかできない表現を目指す姿勢は貪欲だ。音は“目に見えないもの”を伝えることができる。
「音楽は絵(映像)に寄り添うものですけれども、絵では表現していない部分が表現できたらなと思います。たとえば、誰かが亡くなるシーンでは悲しい音楽が流れますが、その後ろにあるもっと温かな感情や情感が表現できればなあと。絵があると、悲しいシーンが悲しいことはわかるじゃないですか。だから、そこに悲しい音楽を上塗りしても、音楽としての意味はそんなにないのかもしれないって思っちゃうんですよね」
「トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦」でも、物語の温かい部分や主人公たちの思い、情感を表現するよう心掛けた。そんな川井氏の印象に残っているのは、腹をすかせた主人公が九龍城砦の中にある飲食店でかきこむ「名物」だという。
「チャーシューご飯(叉焼飯)ですね。樋口真嗣監督がこの映画を観た後、たまらなくなって食べに行ったそうです(笑)」
アクション映画は時間がかかる
映画の場合、川井氏は尺がほぼ決まっている状態の映像を見つつ、シーンの転換などに合わせて音楽をつくる。ただし、アクション映画には独特の苦労があるようだ。
「時間がかかります(笑)。物理的に音数が多くなるので。音数が細かくなったり、ストリングスが刻んでたり、リズムが細かく刻んだり、強い音が入ったり……やっぱりバラードと違って、音数が多いんですよ」
「トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦」で例を挙げるなら、刃物で戦うシーン。完成した映像には「カチン」「キーン」といった効果音が入っている。
「僕が音楽をつける時はまだその音が入っていなかったので、『ここで音が挟まるだろうな』と思うところに音楽的なアクセントをつけました。刃物同士がぶつかると『ガチーン』という音が入るので、そこにあえて音楽的に硬い音はつけないとか、ある程度予想しながら」
映像に合わせ、シーケンサー(デジタル楽器の演奏データを記録・再生する装置またはソフト)上で作った音楽をMIDIデータとして出力する。そして、ソフトを使って譜面化し、それをオーケストラで演奏するというのが制作の流れだ。
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