“おじさん”のチェキがなぜ売れる… 42歳「オジドル」ミュージシャンが語る音楽業界の生存戦略

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チェキの販売はありか、なしかで論争

 昨年10月に発売した写真集『TEX 松永天馬×MOIRA写真集』などは、いかにも「オジドル」らしい活動といえるだろう。

「これはフェティッシュな写真を撮影するフォトグラファーのMOIRAさんに撮りおろして頂きました。撮影に関しては全面的におまかせしました。彼女は被写体の太ももやお尻を撮るのが好きな人で、こんなおじさんのお尻を大写しにした写真集はそんなにないと思いますよ。コスプレ的な撮影に関して、僕も若い時には恥じらいがあった。でも40を過ぎたあたりから、何の迷いもなく楽しくやれるようになりました」

 自分もしばしば囁かれる「オジドル」という言葉については、

「決してネガティブな意味でなく、好きに呼んで楽しんで頂けたらと思っています。大御所ロックバンド筋肉少女帯も『50を過ぎたらバンドはアイドル』と歌っていますし。でも僕が本当に『オジドルかも?』と自覚するようになったのは、チェキを販売するようになってからかもしれません」

 地下アイドルのグッズとしてもおなじみのチェキ。だが、バンド好きの音楽ファンの間では「バンドマンはチェキを売るべきなのか」と、度々、論争が起きているのだ。

「ロックバンドの人たちも、チェキを売るかどうかっていうのが一つの線引きになっているような気がします。チェキOKバンドマン対NGバンドマンの対立が常にSNSを賑わせている(笑)。チェキをやれば売れるのに、やりたがらないバンドマンも多い。アルバイトや副業をやりながら音楽活動を続けている人たちもいますが、チェキを販売すればそれをやらなくて良いかもしれません。しかし硬派なロックバンド的なイメージを守りたいというのも分かります。最近は、チェキの代わりにライブパス(ライブ当日の日付が入ったパス)を販売するバンドもいます。ファンにとっては特別感があるアイテムですが、パスとチェキは正直同じようなものかもしれない(笑)」

 アイドルのみならず、バンドもグッズ販売に力を入れざるを得ない 事情もある。

「世の中が本当にもうCDが売れなくなってきて、音楽業界のビジネスモデルが大きく変化している。日本だとアーティストを応援する方法として、チェキや、コアファン向けの課金制SNSなどが浸透しているのではないでしょうか。変わりつつある音楽業界にとって、チェキはある種の救世主といえます。体感的には、ビジュアル系バンドはチェキを昔から取り入れているけれど、いわゆるロックバンドはやりたくないと思っている人が多いのではないでしょうか。ビジュアル系の楽屋を見ると、スタッフが数人いて、一度に数台のチェキでカシャカシャ撮影していますよ。一ショットで五枚ぐらい。工場みたいですよね(笑)」

 松永も、ワンマンライヴでは数百枚のチェキが売れるという。自身のチェキが求められる現象を、本人はどうとらえているのだろうか。

「日本人って、旅行に行くと記念にお土産を買う文化がある。それと同じ意味合いなのではないでしょうか。とはいえライブで売られているTシャツはデザインに限りがあるし、どのみちパジャマになるって思いながらみんな買っている。その点、チェキはこの世に一つとして同じものがないという希少性が、ファンにとって嬉しいんじゃないかな。場所もとらないから日本の住環境にも優しい(笑)。バンドマンとオジドルの区別でいうと、やはりチェキを売るか、売らないか。そこは大きいかもしれません」

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 記事後半では「アイドル化するバンドマン事情」についても解説してくれた。

【INFO】
17周年記念公演・アーバンギャルドの昭和百年“野音戦争”
2月22日(土) 日比谷野音(日比谷公園大音楽堂)
開場15:45 開演16:30

アーバンギャルドTOUR2025『昭和百年』
・3月15日(土) 心斎橋VARON
開場18:00開演18:30
・3月16日(日)名古屋UPSET
開場17:30開演18:00
・3月29日(土) 東京神田明神ホール(全座席)
開場17:00開演17:45

■アーバンギャルド「昭和百年少女」 松永天馬「バニーガールアーミー feat.キングサリ」のMVをYouTubeにて公開中

池守りぜね(いけもり・りぜね)
東京都生まれ。フリーライター。大学卒業後、インプレスに入社。ネットメディアで記者を務めた。その後、出版社勤務を経て独立。育児、グルメ、エンタメに関する記事のほか、インタビューも多数執筆。『一瞬と永遠』、『絶叫2』など、映像脚本も手掛ける。プライベートでは女児のママ。

デイリー新潮編集部

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