“おじさん”のチェキがなぜ売れる… 42歳「オジドル」ミュージシャンが語る音楽業界の生存戦略

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 近年は、男性アイドルグループの活躍がめざましい。昨年末の「NHK紅白歌合戦」では、JO1、Number_i、BE:FIRSTと共に、純烈がしのぎを削っていた。彼らが平均年齢45歳という「おじさん」世代のメンバーで構成されているのは知られているが、ほかにも秋元康プロデュースの「SHOW-WA」のメンバーにも40代がおり、年齢を重ねた男性アイドルが活躍の場を広げている。「おじさんアイドル=オジドル」と呼ばれるアーティストの話から見えてくる、現代のアーティスト事情とは――。

ミュージシャン?オジドル?

「オジドル」と呼ばれ活動するのは、バンド「アーバンギャルド」のリーダーでもあるミュージシャン松永天馬である。現在42歳という彼に、まずは「オジドル」とも呼ばれるようになるまでの経緯を尋ねてみると、

「詩や小説、演劇や自主映画などを経て、音楽に流れついた感じですね。高校~大学生だった2000年代は、ミュージックビデオも盛んで、音楽がもっとも可能性を感じられる総合芸術でした。大学時代に劇団もやっていたのですが、大学三年生の時に一緒にやっていた仲間から呼び出されて“私たち、就職するから解散”と言われ絶望。色々やった結果、バンドという形式に辿りつきました」

 バンドは今年で結成17年を迎えるが、幾度もメンバーチェンジを経験している。

「現在のボーカルである浜崎容子は4代目のボーカルで、彼女が加入してから軌道に乗り始めました。2008年にインディーズデビューしたのですが、その前年の2007年にperfumeや初音ミクがブレイクしていました。アーバンギャルドの音楽も、ロックを基調としつつ、打ち込み要素のあるテクノポップ、ニューウェーブバンドです。そういう音楽がリバイバルし、脚光を浴び始めた時期でもありました。意識的にやったのではなく、たまたま自分のやりたかったことと時代の流れが合致したんですね」

 そんな彼の今の表現方法は、90年代のバンドブームから現在に至るまでの音楽業界の変化と無縁ではない。

「80~90年代はバンドブームもあってロックバンドが一般化し、音楽をやるというと一般的にはバンドを組むことでしたが、2000年代後半になると『初音ミク』などの音声ソフトが開発され、やり方が変わってきた。主に宅録で、バンドを組むという過程を経ないでミュージシャンデビューする人が増えて来たんです。今は楽曲を打ち込みで作成したらすぐにネットにアップして、デビューもできる。若者が最初に手にする楽器は昔のようにギターではなくて、DTMアプリだとも言われていますよね」

 音楽の潮流がバンドではなく「打ち込み」になった結果、“演奏”以外のパフォーマンスが求められるようになったという。

「オケでライブをやる人も増えてきた今の時代、ライヴハウスではどうやって演奏以外の方法でライブ感を出すかが問われています。それがアイドルであれば振付や観客側のオタ芸だったり。ヒップホップもそうですよね。ラップは言葉を刻んだり即興を織り交ぜることでライブ感を生み出していると思います。ライブをやる上で必ずしも楽器を演奏しなくても良くなってきているいま、たとえば一人でステージに立った時に、どうやってライブ感を作るか。この会場をどうやって掌握したら一番面白くなるか、を考えるのがアーティストのエンターテイナー的な面白さといえます。バンドとはまた違うかたちで、自分のライブを最大限輝かせる方法を考えていくと、自然とアイドルやラッパーの魅せ方から学んでいくことになる」

 松永はバンド活動と並行して、自身がメインボーカルを務めるソロ活動を続けており、こちらは自身のキャラクターを全面に出しているため、より「オジドル」的になっているかも?と自己分析する。私小説のような歌詞もコアで“オタク的”なファン層に支持される理由かもしれない。

「ソロ活動は2017年から本格的に始めました。アーバンギャルドには浜崎さんというボーカルがいることもあり、歌詞には少女の世界観を描き、ボーカルの僕自身は“語り部”ではあるけれどキャストではない。だから自分自身が日常で考えていることを自作自演してみたいという気持ちがだんだん強くなってきたんです。ソロは等身大の自分なのでドキュメンタリーに近い。一般的には需要が無さそうな『等身大の中年男性』を表現してみたらどうなるのだろうっていう興味でやっています」

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