僕が望月衣塑子記者に「うるせえ!」といらだってしまった理由
伝説の記者会見と化した、1月27日のフジテレビ経営陣による超長時間会見。その場にいた元産経新聞記者で、『メディアはなぜ左傾化するのか 産経記者受難記』などの著書があるジャーナリストの三枝玄太郎氏は、有名な望月衣塑子・東京新聞記者をはじめとするあまりにもうるさい一部の記者にうんざりしてしまい、つい「うるせえ!」と怒鳴ってしまったという。
三枝氏はこのカオスの一因として、なぜか左翼系の記者を重視していた司会進行にもあるのではないか、と指摘する。さらには記者たちの「正義感」にも疑念を呈する。
以下、三枝氏の現場レポートである。
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港社長が分からなかった世間の反応
「社会の木鐸」を自称するジャーナリストたちが、世間の顰蹙(ひんしゅく)を買って袋だたきに遭っている。こういう現象は、先進国に限定されるのではないかと思う。本来であれば、政府が強圧的かつ専制的で社会に閉塞感が満ちているとき、マスメディアはもてはやされる傾向にある。日本は批判の矛先がメディアに向くだけ、専制国家よりははるかに自由で健全だという証左だろう。
1月17日にフジテレビの港浩一社長(当時・以下同)は会見を開くと広報した。テレビ・ラジオ放送記者クラブに参加を限り、動画撮影も禁止、フリーの記者は締め出された。フジテレビの広報局に電話で問い合わせたが「記者クラブ以外の方はお断りしているんです」とつれない返事だった。広報局の品の良さそうな女性職員に「分かりました」とだけ言って、電話を切った。
予想通りだったから、腹も立たなかった。
会見は批判を浴びた。それはそうだ。こうした対応を一般企業がしようものなら「逃げるんですかっ」とかみつくのがマスメディアだと、世間は骨の髄まで知っている。フジテレビ報道局の記者が、不祥事を起こした会社の会見にどの面を下げて質問できるか、という話になるのは、自明の理だ。
だが、編成局の敏腕プロデューサーだった港浩一社長には意味が分からなかったらしい。彼の案に相違して、スポンサー企業がCМの広告出稿を続々と取りやめた。それは100社超に及んだともいわれている。
そういう経緯で1月27日午後4時からフジテレビ本社内で改めて記者会見をやると聞いて、行かない理由がない。午後2時半にお台場に到着すると、すでにフジテレビの玄関前には多くの報道陣が並んでいた。外国人も目立つ。
「女性の権利をないがしろにする後進的な日本メディア」とでも世界に報じられるのか、と思うと気が重くなる。
すでに席の4分の3ほどが埋まっていた。前を見ると、会見を荒らすのが恒常的な東京新聞の望月衣塑子記者がいる。元朝日新聞記者でユーチューバーの佐藤章氏や、やはり元朝日新聞記者でArc Times編集長の尾形聡彦氏、統一教会問題で知られる鈴木エイト氏らがずらっと並んでいた。嫌な予感がした。
荒れる会見場
午後4時、フジテレビの港浩一社長と、嘉納修治会長(当時)の辞任が発表され、港社長のおわびの口上が終わるや、会場中から一斉に手が挙がった。
最初に当てられたのは、佐藤章氏だった。佐藤氏は「トラブルのあった会食について、被害者の女性は仕事の延長線上だと認識していたのではないか」と質問した。だが、司会役の上野陽一広報局長に再三、「名前、所属先、肩書なども含めて個人の特定につながる質問はお控えください。また、個人の人権侵害、誹謗中傷ととられる質問もお控えください」と割って入られると、「質問できないよ。冗談じゃないよ!」と激高した。
次に当てられたのは、尾形氏。彼は1人2問まで、という事前の取り決めを無視して、延々と質問を繰り返した。悪い予感が当たった。
会見が最も荒れたのは、午後9時ごろだろうか。遠藤龍之介副会長に広報局員から紙片が渡され、遠藤氏が「先ほど、中居氏は同意と認識し、被害女性は不同意と認識している、と言ったのは撤回させてほしい」と言った刹那だった。怒号の嵐とでも言おうか。「こんな会見やめろ」「司会者変えちまえ」とあちこちから怒声が飛ぶ。
この直後に当てられたフリージャーナリストの横田増生氏は、遠藤氏のコメントを撤回させることに強くこだわり続け、「中居氏は同意なんですか、不同意という認識なんですか」と30分も粘って、遠藤氏を追及し続けた。
会見開始からずっと「なぜ私を当てないの」「こんな会見、やる意味ない!」と不規則発言を繰り返していた望月氏ががぜん張り切って、わめき散らしている。僕は思わず「望月、うるせえ!」と叫んでしまった。
僕の3列横にもヤジをやめない、初老の男性がいた。僕は顔も名前も知らないが、望月氏と親しそうに話をしていた。テレビのワイドショーのリポーターをしていた女性があいさつに来ていたことからも、一部界隈ではボス的な存在なのかもしれない。
「うるさいな。聞こえないじゃないか」とこちらにもキレてしまった。男性は「何だとこの野郎。名を名乗れ。貴様、ぶっ飛ばすぞ!」と怒鳴ってきた。撮影係として、僕の隣に座っていた長男が「こちらの人(増田氏のこと)は言っていることは分かるけれども、あなたの言っていることはただのヤジだ。やめてくれよ」と加勢してくれた。まだ大学生である。やっとフリーライターのボス格の男性は黙った。
「静かにしてください、マジで」
このカオスの中、通販新聞の記者は、最初に「一応、手を挙げた人が質問するというルールになっているので、そこは守ってください。静かにしてください、マジで」と厳しくかつ冷静に指摘をした。拍手が起きた。僕も拍手をした。だが、ヤジを繰り返す記者にヤジを飛ばしたことを捉えれば、僕も同罪かもしれない。当てられたら指摘したのにな……。少し、彼に嫉妬した。
それにしても、この正論を口にした記者に対してまで、まるで一昔前の株主総会で暴れる総会屋のごとく、不規則発言を繰り返していた記者たちは何が目的なのだろうか。
高い給料を得ているエスタブリッシュメントの代表格であるフジテレビの役員にかみつく自分は、彼らに社会正義を知らしめている、と酔っているのか。それとも自らの境遇と対比させたルサンチマンか。
いずれにせよ、「私を当てなさいよ」と怒鳴った望月氏に至っては、選民思想の持ち主にしか見えなかった。思い上がりも甚だしく言語道断としか言いようがない。いったい、東京新聞はこういう記者会見の妨害を是としているのだろうか。
第一、望月氏は自らの講演会の取材に新潟まではるばるやってきた産経新聞の記者を締め出して、傍聴を拒んだことがある。自分には甘く、他人には驚くほど厳しいのだ。
拙著『メディアはなぜ左傾化するのか』の中でも、いわゆるリベラルをうたうメディアは、往々にして自分たちの正義のみを声高に口にする傾向があることは指摘した。今回もその傾向が垣間見えた会見だったといえるかもしれない。
もっとも、上野広報局長もテレビやネットによく出る左翼人士を最初の方に当てていた傾向があった。長丁場を付き合わなければいけない高齢の役員に配慮して「面倒は早いうちに片付けたい」と考えたのかもしれない。だが、もしそうであれば、おとなしく順番を待っている、真っ当な記者らにとっては著しく不公平だ。
この会見の後、賛辞は、正義感もあらわにヤジを飛ばしていたフリー記者や望月記者にではなく、通販新聞の記者に集まった。怒鳴り散らし、進行を妨害し、自説を延々と演説し、生い立ちを長々と語り、キーキーと不規則に喚き散らす社会正義など、誰も求めていないのだ。むしろ、彼らが暴れれば暴れるほど、10時間を超す理不尽かつレベルの低い会見を耐え忍んだフジテレビ役員のお爺さんたちに同情が集まるのだから、全くの逆効果だ。
この会見では、むしろオールドメディアといわれるテレビ、新聞各社の現役記者の方がはるかにお行儀は良かった。彼らは近年、SNSの普及、発展と比例して厳しい批判にさらされている。それがプラスに働いた面もあるのだろう。どの業界も批判なき改革はあり得ないのだ。
ジョン・アクトンの「権力は絶対的に腐敗する」という格言は、記者らマスメディア関係者にも普遍である。記者の考える正義もまた絶対的なものではない。そのことを僕ら記者は常に肝に銘じなければならないと思うのだが、あの時騒いでいた記者には理解できるだろうか。