「北朝鮮に対する戦術はシンゾーに聞こう」 なぜ安倍元首相はトランプ大統領に深く食い込むことができたのか【日米首脳会談】

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安倍外交を踏襲

 石破首相は日本がアメリカでどれだけ雇用を生み出しているかが分かる地図を事前に用意して会談に臨んだが、これも安倍元首相の「遺産」である。

 本誌(「週刊新潮」)連載「貴方にスポットライト」でおなじみの元NHK解説主幹、岩田明子氏が言う。

「安倍さんはトランプさんの大統領就任後の首脳会談で、日本企業がいかにアメリカに投資しているかが分かる地図を持ち込み、トランプさんに見せました。トランプさんはこれをとても気に入り、自身のX(旧ツイッター)に載せたこともあります。石破さんはこの手法をそのまま踏襲したわけです」

 自身の持論である「日米地位協定見直し」や「アジア版NATO創設」などは封印し、現実路線を取った、といえるだろう。

「事前に勉強会をやる中で、石破さんは自分のやりたいことを優先するより手堅く安倍外交を踏襲するほうが国益を目減りさせない、という結論に至ったのでしょう。外交経験が乏しい石破さんはそう割り切ったのだと思います。この決断により、今回の首脳会談が失敗するリスクはかなり小さくなっていました」(同)

「北朝鮮に対する戦術はシンゾーに聞こう、となった」

 今回の会談にかくも大きな影響を与えた安倍元首相とトランプ大統領の人間関係。その蜜月は2016年11月、安倍元首相が各国の首脳に先がけてニューヨークのトランプタワーに駆け付け、大統領選に勝利したばかりのトランプ大統領と行った90分に及ぶ会談から始まった。

「この時安倍さんはトランプさんに対して、『私とあなたには共通点がある。あなたはニューヨークタイムズに徹底的にたたかれたけど勝利し、私はニューヨークタイムズと提携している朝日新聞に徹底的にたたかれたけど勝利した』と言いました。するとトランプさんは親指を立てながら『俺も勝った!』と笑顔で答えたといいます」(政治ジャーナリストの石橋文登氏)

 この時のトランプ大統領は政治経験のない実業家。安倍氏は首相に返り咲いて5年目だった。

「二人の経験値には大きな差がありました。トランプさんは“北朝鮮ってどんな国?”“金正恩はクレイジーなのか? それとも天才なのか?”といったシンプルな疑問を安倍さんにぶつけた。対する安倍さんは小泉純一郎政権下で正恩の父・金正日と対面した時のやり取りや拉致問題にどう対処したかといった手法を惜しみなくトランプさんに伝えました」(前出の岩田氏)

 また、北朝鮮の非核化については、

「不可逆的でなければならず、サラミ戦術をしてはいけない、と伝えています。サラミ戦術とは議題や措置の内容を小出しにする方法で、その間時間稼ぎをされるだけになる。この安倍さんの話にトランプさんは聞き入り、北朝鮮に対する戦術はシンゾーに聞こう、となりました。トランプさんとの強固な関係の基盤には、この時のやり取りがあるのです」(同)

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