「選択的夫婦別姓」が進まない“本当の理由” 自民党に刻まれた「300万票」離反のトラウマとは 辻元清美、野田聖子が推進、高市早苗は慎重

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参政党と日本保守党の比例票は

 一方、自民党支持層のうちの固い部分、いわゆる「岩盤保守層」を押さえるための選挙戦略とも切り離せない。昨年10月の衆院選では、参政党、日本保守党という「自民党より右」と目される政党が比例代表で計300万票を超した。つまり、これだけの票が自民党から離れたとも推測でき、今夏の参院選を前に「これ以上、票を失うわけにはいかない」(関係者)わけである。党執行部もこのような現状は当然に踏まえている。本来は別姓に賛成という女性議員の一人は、衆院で自公が過半数を割っている現状を憂慮し「ことを急いで、政権を失っては元も子もない」と、今回ばかりは静観の様子だ。

 党執行部は亀裂が広がらぬよう、ことの運びに細心の注意を払う。ワーキングチーム座長で、石破茂首相と初当選同期組の重鎮、逢沢一郎衆院議員は意見集約には期限を区切らない考えを示している。石破首相は2月12日の参院本会議で、広く国民の理解が必要な課題であるとの認識を改めて表明し、一方で党総裁として党内議論について「頻度を上げ、熟度を高める」などと答弁した。

 もっとも、職業上のキャリア維持や各種の利便性向上の重要さは、賛否双方の立場が認めている。このため慎重派からは、夫婦同姓は維持した上で、婚姻前の旧姓の通称使用を拡大する案がいくつか提起されてきた。これまでに高市早苗・前経済安全保障担当相、衛藤晟一・元沖縄北方担当相、稲田朋美・元防衛相など保守系の有力議員らが中心となり、それぞれの案を示している。党内では現在、こうした経緯も念頭に、別の案も練られているという。通称使用拡大案は複数の政党にある。石破首相は1月のインターネット番組で「どちらの考えにも偏れないなら、折衷案というのもあり得べし」などと語っており、可能性に含みを持たせている。

 世論調査でも、通称使用拡大案は一定の支持を得ている。こうした情勢を踏まえると、自民党内での議論は、現時点では何らかの通称使用拡大案に落ち着くことが妥当な線である。また、これを踏まえた対案を国会に出さなければ、キャリアの維持や利便性などの改善に貢献することはできなくなり、女性活躍社会の実現に後ろ向きな政党とみなされかねない。

成立は厳しい

 他党の状況を見ると、野党では国民民主党が先の衆院選の政策で選択的夫婦別姓制度の導入を記載しているものの、党幹部らが衆院選後に慎重に議論を行うべきだという趣旨の発言をした。日本維新の会は、立憲案のような制度とは異なる方式を示している。

 選択的夫婦別姓に賛成の立場を取ってきた公明党との与党間調整は課題として残るが、仮に自公が決裂すれば参院選を前に野党を利することになり、接点を見出すために粘り強く知恵を出そうとするであろう。また、参院においては依然として与党が過半数の議席を占めている。こうした事情を総合的に考慮すれば、今国会での選択的夫婦別姓の成立は厳しそうだ。ただ、通称使用拡大が実現するかどうかも見通せない。

 とはいえ、結論がどうなるかにかかわらず、別姓をめぐる論戦が政権にボディーブローのように効いてくることはあり得る。企業・団体献金の禁止、自民党地方組織にも及んだ政治資金不記載問題(いわゆる裏金問題)は引き続き今国会の焦点であり、これらと合わせ、政権の帰趨を左右する懸案であることに変わりはない。

市ノ瀬雅人(いちのせ・まさと)
元報道機関勤務。政治分野などを担当した。

デイリー新潮編集部

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