「選択的夫婦別姓」が進まない“本当の理由” 自民党に刻まれた「300万票」離反のトラウマとは 辻元清美、野田聖子が推進、高市早苗は慎重

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 衆院で「ハングパーラメント」(少数与党)となっている石破政権が初めて臨む通常国会となった今国会は、予算の成立後は、選択的夫婦別姓制度が焦点となる見通しだ。推進派の柱となる野党第一党・立憲民主党は2月12日に辻元清美代表代行をトップとする推進本部を設け、導入に向けた民法改正案の今国会提出を目指す。これに対し、自民党もワーキングチームでの検討を本格的にスタートさせた。とりわけ自民党では賛否両派が併存し、論争が長く続いてきた経緯があり、党内の意見集約の行方も注目されている。
【市ノ瀬雅人/政策コンサルタント】

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 選択的夫婦別姓は、希望すれば婚姻後も姓(=氏)を変えずに済む制度だ。賛成論の主たる理由は、仕事における婚姻前からのキャリアの継続性維持や各種手続きの利便性の向上、個人として尊重されるというアイデンティティーの保持といった点である。これに対し、反対理由は、家族としての絆や一体感が損なわれる、親子で姓が異なる事態が生じたり子どもの姓を決めるときに混乱したりする――などが挙がる。

 法相の諮問機関である法制審議会が1996年、同制度の導入を提言する内容の民法改正案を答申したが、与党内の反対意見などで日の目を見なかった。膠着してきたのは、氏という幅広く人々に影響を与える制度改変であるにもかかわらず、国民の大勢が容認したとの認識には至らなかったという背景がある。加えて、特筆すべきは、家族ひいては個人の在り方から、国家観にまで及ぶ性格を帯びるというテーマの特殊性である。賛成論がうたう、改姓しないことによるアイデンティティーの保持という長所は、慎重派が指摘する「家族の絆、一体感が損なわれる」というデメリットと裏表の関係にある。いわば対立軸として、価値観がぶつかり合っているのだ。

自民党が自民党でなくなる

 自民党には選択的夫婦別姓の早期実現を目指す国会議員連盟が存在し、野田聖子・元総務会長など有力議員が名を連ねる。参加議員数も一定の規模を誇り、設立に当たっては、多様性や個人の尊厳の確保を前面に打ち出した。党内では最近も「同一の氏を強制されることで辛さ、不便さを感じている人がいる」「姓を変えたくない人の思いに応えるべきだ」などの賛成意見が出ている。

 ただ、自民党内の検討過程が注目を集める背景の一つは、その慎重論の根強さにある。これは理念上の問題として、伝統的家族観の否定につながるとの懸念にとどまらず、地域や社会におけるさまざまな共同体への懐疑といった「国の在り方」そのものを変質させかねないとの警戒があるためだ。社会は純粋な細粒のような「個」の集合体に還り、そういう国家像とは相容れない――というわけである。もっとも近年、より言われる傾向にあるのは、親子の姓が異なることの影響だという。

 自民党は、左右の社会党統一を受け、1955年の「保守合同」によって結党した文字通りの保守政党であり、圧倒的長期にわたり政権を担ってきた。こうした歩みを鑑みれば「家族の一体感から国柄(くにがら)まで」を包摂するこの制度改正は、それこそ党の「アイデンティティー」とは何かを自問させるものとなる。慎重姿勢を示す党有力者の一人は「そもそも選択的夫婦別姓を認めることは、自民党が自民党でなくなることに等しく、他の政策とは性質が違う」と語る。

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