なぜ人は「事実」よりも「いかにもありそうな話」を信じるのか…SNSに蔓延する「黒い世論操作」を描く戦慄の韓国映画「コメント部隊」
「世論操作」の戦慄の実態
韓国映画「コメント部隊」が描くのは、SNSで密かに行われている「世論操作」の戦慄の実態だ。冒頭では、物語の主人公イム・サンジンによってある疑問――2017年にパク・クネ政権を追い詰めた数百万人規模の「ろうそくデモ」を最初に始めたのは誰か?――が提示される。
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ろうそくデモが最初に行われたのは92年、パソコン通信の有料化に抗議する数人のデモで、中心となったのはある一人の中学生だ。抵抗虚しく有料化は実行されたわけだが、成長したその中学生は超高速のインターネットを得たことで、ろうそくデモを急速に拡大させることに成功、2017年に政権交代を実現させるに至る――というのは、サンジンが「使命感にかられて」ネットを通じて調べた「事実」である。
物語は、大手新聞社の記者だったイム・サンジンが、なぜ「使命感にかられる」までになったのかを描いてゆく。ことの発端は、韓国で最も大きなグループ企業「マンジョン」の不正を暴いた特ダネ記事を書いたこと。これが「誤報」だったために、マンジョンから個人として訴訟を起こされたサムジンは、無期限の停職処分になる。
SNSでの「キレギ(ゴミ記者)」という誹謗中傷の嵐の中、サムジンのもとに「あれは誤報ではない。すべてのコメントはマンジョンの工作」という一通のDMが届く。呼び出された場所にいた青年イ・ヨンジュンは、友人と3人でコメントによる世論操作で小金を稼ぐうち、マンジョンの「世論対策チーム=コメント部隊」にスカウトされたというのだ。
「いかにもありそうな話」であればいい
彼らがどんなふうに「コメント部隊」となっていったか――ヨンジュンが語る物語は「いかにもありそうな話」だ。
Instagramでは「自信に満ちた美しさとセレブ風な空気感」で大衆の心をくすぐり、隠された広告要素をリポストさせる。個人を破滅させたいなら、まずはその承認欲求を刺激すべくもちあげる。本人の得意とフォロワーの嫉妬が頂点に達したタイミングで、手のひら返しの中傷を一つ投げれば、あとはみんなが始末する。
何かしらの組織を潰すなら「労働問題の告発」がいい。40代男性が多い政治系のサイトに投げれば、声高な「正義マン」がリポストで広めてくれる。投稿は必ずしも事実である必要はない。完全な事実ではないが、完全な嘘でもない、「いかにもありそうな話」であればいいのだ。例えば「不正に関わった者は、みなその企業に転職した」と聞かされた人間が、たったひとりでも当てはまる例を見つけたら、人間はすべてをまるっと信じてしまう。
ここではSNS時代の「黒い世論操作法」のすべてが語られる……いや、まて。この青年が語る「いかにもありそうな話」は、果たして本当か?
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