トランプ政権の「手荒な移民強制送還」にも沈黙…米国との“蜜月”をアピールしても、インド経済にリスクが生じるのはなぜか

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インド株はパーフェクトストームの渦中?

 バイデン前大統領の「フレンドショアリング(中国以外の友好国に生産をシフトすること)」が追い風となってインドへの直接投資は増えていたが、現在の米国が自国内への投資をアピールする中、その流れは急速にしぼんでしまうかもしれない。

 インド経済はこのところ減速気味だ。インド政府が発表した今年度の経済成長率予測は前年比6.4%増と4年ぶりの低水準で、当初予想(6.5~7.0%)の下限を下回った。政府は来年度についても6.3~6.8%との見通しを示しており、景気低迷は続きそうだ。

 株式市場も下落基調を強めている。インドの代表的な株価指数SENSEXは昨年9月末に付けた過去最高値(8万5836)から1割安の水準だ。市場では「インド株はパーフェクトストーム(悪いことが同時に起きる破滅的な状況)の渦中にある」との声も聞こえてくる。

 このような状況を踏まえ、インド政府は来年度の予算案に個人所得税の非課税対象枠の大幅引き上げを盛り込んだ。物価高にあえぐ中間層の可処分所得を増やし、低迷する消費を刺激するのが狙いだ。

 インド準備銀行(中央銀行)も7日、主要政策金利を6.25%に引き下げた。利下げでは約5年ぶりで、景気低迷に対応した形だ。

個人消費の伸びがGDPの伸びを下回る

 気がかりなのは、インドの経済成長をこれまで牽引してきた個人消費の変調だ。過去10年にわたるモディ政権の下で、インドの個人消費は3倍近くに拡大し、国内総生産(GDP)に占める比率は58%に達した。

 だが、個人消費の伸びがGDPの伸びを下回るようになっている。賃金の伸びを上回るインフレが中間層の家計を圧迫しているからだ。スターバックスと提携するタタ・コンシューマー・プロダクツが出店の延期を余儀なくされるなど、外食費の低迷が進んでいる。

 ボストン・コンサルティング・グループは、インドの若者消費が「2035年までに9倍に拡大」としているが、筆者は「楽観的すぎる」と考えている。

中間層は拡大するどころか縮小

 問題の根本にあるのは雇用環境の悪化だ。世界最大の人口を擁するインドでは、労働市場が大幅な供給過剰となっているため、賃金の伸びを抑え込む状況が続いている。「インドの中間層は拡大するどころか縮小している」との指摘が出るほどだ。

 インド政府は2020年以降、雇用吸収力が大きい製造業の振興のために総額1.5兆ルピー(約2.6兆円)の補助金を支給しているが、GDPに占める製造業の割合を25%に高める目標には遠く及ばない(2023年度時点で14%)。

 輸出拡大を通じた製造業の活性化も、米国の保護主義的な政策が足かせとなるだろう。雇用創出がとりわけ期待されるのは中小企業だが、そこに対する政府の支援策の拡充も進んでいない。

「インドを再び偉大にする」との掛け声は勇ましいが、せっかくの「人口ボーナス(労働力の豊富さが経済成長を促すこと)」を生かせる環境を整備しない限り、その実現は困難なのではないだろうか。

藤和彦
経済産業研究所コンサルティングフェロー。経歴は1960年名古屋生まれ、1984年通商産業省(現・経済産業省)入省、2003年から内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣情報分析官)。

デイリー新潮編集部

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