松坂桃李演じる官僚教師が“上級国民予備軍”を教育 異色の学園モノ「御上先生」の見どころを解説

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 頑張って勉強しなくてもずば抜けて頭脳明晰な人は、日々どんなストレスを抱えているのだろうか。世の中がなぜこうも悩んだり、無駄に時間を割いたり、先を見通すことができないのか、いら立ちや疲弊や絶望を感じたりしないだろうか。聡明な友人が「今騒いでいる社会問題なんて、子供の頃から疑問に思ってたよ。何を今さらって感じ」と話していたのが興味深かった。賢いがゆえのジレンマや孤独もあるんだろうなと思った。

「御上先生」はそんな聡明な若者が通う進学校が舞台の学園モノだが、やや異色。

 文科省から派遣された官僚が教師となり、未来の上級国民予備軍たちに、きれいごとではない「真のエリートになるための情操教育」を実践していく。熱血でも元不良でも人情派でもない、極めて怜悧冷徹な官僚教師・御上孝(みかみたかし)を演じるのは松坂桃李だ。「今ここにある危機とぼくの好感度について」(NHK)で見た目だけでなーんも考えてない無責任男を好演したが、今回の役は真逆。低体温で虎視眈々と企んでいる策士だ。この低体温を保ったままで、御上を演じ通してほしい。

 御上は天下りの仲介をした疑惑の責任を背負わされて、私立隣徳学院へ赴任。民間への官僚派遣制度というが、上司で局長の塚田(及川光博)と同期の槙野(岡田将生)が水面下で動いて追いやった、事実上の左遷で、島流しでもある。

 そもそも日本の教育の在り方に疑念を抱き、怒りを覚え、へきえきもしている御上。でも絶望はしていない。濡れ衣&左遷を受け入れたのは、文科官僚として真の教育改革をもくろんでいるからだ。背景にあるのは優秀な兄の自死。賢さは孤独を、孤独は狂気を生み出すことを体験した御上は、これ以上犠牲者を出さないために教育の現場へ斬り込む。

 学園モノにしては1ミリも爽やかではないが、社会のひずみや因習、教育現場や悪政への皮肉は鮮やか。国を滅ぼしかねない狡猾な官僚や、政治家とつながる利権に群がるやからの跳梁跋扈(ちょうりょうばっこ)も描く、社会派作品だ。至高の豪華悪玉軍団(及川光博、北村一輝、林泰文に迫田孝也)が業(ごう)の華を彩っているしね。

 気持ちがいいのは、聡明な高校生たちの機知に富んだ日常会話や成熟した距離感。賢く見える若手役者陣を配置し、作品に説得力をもたらしている。自己主張も議論もできるが、傾聴もできる。特に、富永(蒔田彩珠・あじゅ)の返しは最高。こびず、相手を気圧(けお)さず、受けとめたり受け流したり。最小限の返しで、聡明さとチャーミングさが伝わる。斜に構えた神崎(奥平大兼・だいけん)、ひょうひょうとした次元(窪塚愛流・あいる)らが進学校の闇と真相にたどり着けそうな気もしている。

 今後は生徒たちの事情に触れつつも、御上の真意が明かされていくのだろう。また、エリートへの第一の関門である国家公務員試験の会場で起きた殺人事件や、権力と教育機関のあしき癒着と隠蔽(いんぺい)も絡んでいくはず。

 政治も教育も社会もそうそう変わらない。変えようとしたら大きな力で排除される。でも若いうちに権力との闘い方を学んだとしたら? そこに希望を感じる。

吉田 潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビドラマはほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2025年2月20日号掲載

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