長男の衝撃告白に激怒し、家庭内孤立… 家に帰れない51歳夫が求めた「安らぎ」の真実とは

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妻が突きつけてきた「手紙」

 数日後、帰宅すると妻が待ち構えており、「どういうことなの」と紙を突きつけられた。それは優奈さんからの手紙だった。どうしてもお宅のダンナさんと一緒になりたいから離婚してくださいと書いてあった。

「妻が、全部見てという。書類がついていました。優奈の戸籍謄本で、あちこち消してあったけど、両親の名前のところに『長男 優』と書いてあったんです。わけがわからなかった。優奈が長男? 優奈はどこからどう見ても女性ですし、僕らは体の関係もあるのに。ふざけたことをしていると思いました。てっきりいたずらだと……」

 優奈さんはこの手紙を持って私の会社に来たのと妻が言った。彼女はあなたのことを調べていたのよ。妻からそう聞き、彼は「優奈に脅迫されたのか」と聞いた。

「違う、彼女はあなたに本気になった。だけど自分が性転換手術したことを言い出せなかった。戸籍上は男だから結婚もできない。それでも私を愛してくれるのだろうかと涙ながらに語ってた。私の立場では怒るべきだし嘆くべきだけど、彼女の真摯な態度に怒れなくなった。確かにあの子はいい子よ。あなたが本気で好きになったなら、私は離婚してもいいと思ってる。ただ、この真実を知って、あなたはそれでも彼女を愛せる? だったら息子のことも愛してよ。私が本当に言いたいのはそのこと」

 妻はそう言って黙り込んだ。祐司さんは衝撃が大きすぎて、まったく対応できなかったという。言葉ひとつ発せなかった。

「僕の浮気と、長男のことは別の話なんだけど、妻も僕もそれを別にはできなかった。なにをどう考えればいいのかわからなくて、生きているかどうかもわからないような生活が続きましたね。その間も妻は優奈と連絡をとっていたみたいです」

祐司さんの家族の行方は…

 祐司さんは優奈さんに会うことができなかった。会ったら前と同じような情熱がわいてくるのか、あるいは顔も見たくないと思うのか、判断ができなかったのだ。会うのが怖かったというのが本音だと彼は小声で言った。

「でも彼女を好きだったのは本当なんでしょうと妻には言われました。生まれたときの性別が男だとわかったとたん、彼女を嫌うのはおかしいと。確かにそうなんですが、受け入れられない。彼女を女性として好きだった自分のことも信じられなかった」

 彼は気持ちを整理できないまま日々を過ごしていた。ある日、優奈さんからの手紙を妻から受け取った。そこには一言、「ごめんね、さようなら」と書いてあった。本当にこのままでいいのかと妻に聞かれた。優奈さんにまったく気持ちが残っていないわけではない。だが体が動かなかった。頭ではわかっているのに体と心が拒否していた。

「その後、大学を卒業した長男は家を出て行きました。僕がいないところで妻やきょうだいとは連絡をとっているようです。元気でやってくれればいい、それ以上のことは今は考えたくないと思っているうちに年月が過ぎている」

 妻との関係は家庭内別居に近い。次男や娘もほとんど話しかけてはこない。ただ、ときどき妻は「大丈夫?」と声をかけてくれる。それがささやかな救いになっていると祐司さんは言った。

 ***

 自らの言動によって、家庭崩壊を招いてしまった祐司さん。その萌芽は3年間の単身赴任にあったのかもしれない。【記事前編】で紹介している。

亀山早苗(かめやま・さなえ)
フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。

デイリー新潮編集部

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