長男の衝撃告白に激怒し、家庭内孤立… 家に帰れない51歳夫が求めた「安らぎ」の真実とは
逃げるように始まった「優奈さん」との関係
数日後、彼は浮かない気持ちを抱えて、やはりまっすぐ帰る気にはなれず、街で見つけたバーに寄った。止まり木でひとり飲んでいると、華やかな美女が隣にすっと座った。思わず見ると、彼女も彼を見てうっすらと微笑んだ。
「1杯、いかがですかと思わず言ってしまいました。彼女は僕が飲んでいるものを見て、じゃあ同じのをって。華やかだけど品がある。グラスの持ち方、掲げ方、目線の動かし方、どれも上品な色気に満ちていた。30代前半かなあ、落ち着いているけど若さがあった」
ぽつりぽつりと言葉をやりとりした。彼女は「優奈と言います」とだけ自己紹介した。
「今まで観た映画の中でいちばん心震えたのは?」「生まれてから最初の記憶は?」など、仕事や背景をいっさい抜きにした質問がやんわりと飛んできた。しばらく話したあと、優奈さんは「男と女の間に肩書きなんていりませんよね」と言った。
「これは誘われてるんだと思いました。女性の誘惑を断るなんて男としてはできない。女性に恥をかかせることになる。そのまま店を出てタクシーに乗り、ホテルへ行きました。彼女は会話のセンスも素敵だったけど、体もすばらしかった。また会いたい。そう言ったら連絡先を教えてくれた。それでときどき会うようになったんです」
お互いに下の名前しか知らなかった。お互いの仕事も聞かなかったし、出身地もどこに住んでいるのかも、既婚かどうかも知らない。目の前の互いの肉体と心を通わせることしか考えなかった。
「半年ほど、週に2回くらいの割合で会っていました。お互いをつなぐのはSNSのメッセージだけ。でも彼女は約束を必ず守ったし、僕らは本当にいい関係だったと思う。暗黙の了解のように互いのプライバシーには立ち入らないようにしていたんだけど、あるとき、『あなた、結婚してるでしょう。私、あなたを奪いたくなった』と彼女が言い出した。家庭は相変わらずの雰囲気だったし、僕はいてもいなくてもいい存在だと思っていたから、『いいけど、まだ養育費がかかるよ』と正直に言いました。『私も一緒に払うわよ』と彼女。おもしろい人だなと思った。彼女の背景はなにもわからないけど、家庭から脱落して、こういう女性と暮らしてもいいかもしれない。本気でそう思いましたね」
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