長男の衝撃告白に激怒し、家庭内孤立… 家に帰れない51歳夫が求めた「安らぎ」の真実とは

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すでに家族は知っていて…

 懐が痛いなと思いながらタクシーで帰宅すると、リビングで妻が起きて待っていた。

「知ってたのかと言うと、妻はかすかに頷きました。長男が高校2年生のときに手芸をしながらぽろっと本音を洩らした、と。『私だって驚いたけど、考えてみればあの子の人生はあの子のものだから。性転換手術をしたいわけではない、今はときどき女の子のファッションをしているだけでいい、男性に性的欲求は感じないけどプラトニックなら男性が好きみたい』などと言う。聞きたくなかった、知りたくなかったですよ、そんなことは。オレの長男はどこへ行ってしまったんだ……そう思うとなんだかいたたまれなかった」

 家にはいたくない。そう思ってリビングから飛び出すと、自室から出てきた次男と鉢合わせになった。

「おとうさんからの圧で、兄貴、あれでけっこう生きづらい人生を送ってきたんだよと次男が言うんです。だってオレは今日知ったばかりでと言いかけたら、『おとうさんはずっと男はこうあるべきって言ってきたじゃん。ああいう言葉がいちいち兄貴の心をグサグサ突き刺していたんだよ』って。だってアイツは男だよと思わず言ってしまった。男と女、ふたつの性の間には、さまざまな特徴のある人がいるんだよ、二分されるわけじゃないんだと次男は言いました。後から知ったけど、次男はそういう問題をいろいろ独学で勉強していたみたいです」

 中学生になったばかりの娘も、その様子を見ていた。「私はおにいちゃんが男でも女でも、その中間でも何でもいい。おとうさんは男だ女だって言い過ぎだよ」とつぶやいた。

母親はすごい

 知らなかったのは自分だけ、四面楚歌か……。家族って何だったのだろう。祐司さんはそのまま寝室にこもった。その晩、妻は寝室へは現れなかった。どうやら娘の部屋で寝たようだ。長男は帰ってきているのだろうかとは思ったが、長男のことを思うと胸がざわざわする。受け入れるとか認めるとかいう以前に、彼の心の中には何の準備もできていなかったのだろう。

「それからしばらくは家に帰っても、家族とはあまり口をききませんでした。腹を立てているわけではないんだけど、どういう態度をとればいいのかわからなかった。長男は僕とは顔を合わせないようにしている。妻でさえ夫婦の寝室には来ない。でも、このままでいいはずがない。妻も同じように思っていたんでしょう。週末、寝室に来ました。『話せる?』と」

 あなたを仲間はずれにしていたわけではない。ただ、相当なショックだろうし、認めるとは思えないから、長男は言うべきタイミングを考えていたんだと思うと妻は言った。飲みに行こうと誘われて長男はうれしそうだった。だからこそ、最初に告白したのだろう。勇気が必要だったはずなのに、あなたはそれをまったく斟酌しなかった。妻は静かにそう言った。

「受け入れられるのかと聞いたら、妻は『どういう子であれ、私たちの子よ』と言いました。母親はすごいなと思った」

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