38万円で凍結できた卵子は5個……「小池百合子都知事」が後押しする「卵子凍結」のメリットとデメリットとは

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若い卵子の方が妊娠率が高い

 東邦大学医学部産科婦人科学講座教授の片桐由起子氏が解説する。

「未受精の卵子を凍結する技術は以前からありましたが、自由診療で高額であるため、卵子に影響を与えるがん治療を行う患者や、富裕層など一部の方に利用される技術でした。しかし最近は、健康ではあるものの卵子凍結を望むという方が増えており、このようなケースをわれわれはノンメディカルの卵子凍結と呼んでいます」

 といっても、特殊な医療行為ではなく、

「平たく言うと、不妊治療の体外受精のプロセスを途中までやるのと同じです。ですから、不妊治療で体外受精を行っている医療施設であれば、必要な技術や設備は整っています」(同)

 なぜ卵子を凍結したいと考える人が増えているのか。それは若い卵子の方が妊娠率が高いからである。

「年齢が高くなるとともに卵子は老化し、35歳くらいから妊娠率低下が加速していきます」

 とは、医療法人オーク会の医師・船曳美也子氏。

「出生時の赤ちゃんにはおよそ200万個の“卵子のもと”があり、月経が始まる頃には、30万個に減っています。月経周期中は、ホルモンの刺激により、複数の卵子のもとが発育し、最終的に1周期に一つの卵子が排卵されます。卵子内の染色体は、生まれてから排卵までの長期間、分裂途中の状態にあり、タンパク質の劣化などが原因で、妊娠力が落ちる、いわゆる老化します。そのため、採卵は35歳未満が推奨されています」

 妊娠率は妊娠時の年齢ではなく、採卵した時の本人の年齢や卵子の質に左右される。

「25歳で採った卵子で45歳時に妊娠した際は、高齢出産のリスク、つまり、妊娠糖尿病や、妊娠高血圧症候群、分娩時の弛緩出血など、高年齢妊娠に伴う産科リスクは上昇するものの、妊娠率は25歳のそれに準じます」(片桐氏)

 ゆくゆくは子どもが欲しいが、いまは仕事に集中したいという女性が将来の妊娠のために卵子凍結を選択するというのは、合理的ではあるのだ。

体験者が語る副作用とは

 冒頭で登場した小松原さんもそうした理由で凍結を選んだ一人。

「9歳からフィギュアスケーター人生を歩む中で、体重制限やストレスなどが原因で生理が安定しておらず、そのことにずっと不安を抱えていました。18歳の時、スケートの先生に“生理がこない”と相談すると“体重制限できているってことじゃん、よかったね”という反応が返ってきて戸惑うこともありました。しかし、そういう環境の中でも北京五輪を前にやはり“たとえ五輪に出られなくても競技を続けたい”と考えました。では出産はどうするのか。その不安を解消するために調べて見つけたのが、卵子凍結だったんです」

 実際に凍結できた卵子は5個で、この時にかかった費用は総額約38万円だった。

「採卵から1年がたち、クリニックから保存期間延長の連絡が来ました。追加の延長費用は1年で4万円でした」(同)

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 有料記事「『妊娠3カ月と見紛うほどお腹が膨らんで…』『9割の卵子が使われない』 東京都の説明会に希望者が殺到する『卵子凍結』の“光と影”」では、脚光を浴びる卵子凍結を行った体験者の話に加え、制度上の問題などを専門家の解説を交えて報じている。

デイリー新潮編集部

週刊新潮 2025年2月13日号掲載

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