「アジア選手権で優勝」も代表選手の渡航費は“自腹”…人気急上昇でも「トレイルランニング」協会トップが頭を抱える意外な理由
「壁」の存在
舗装された道路ではなく、山などの不整地をかけるスポーツ「トレイルランニング」の人気が今、高まっている。日本国内の競技人口はすでに30万人を超えるといわれ、登山道を歩けば必ずと言っていいほど“トレラン民”とすれ違うようになった。また、国内で行われる大会も現在は400を超え、海外の大会に出場している市民ランナーも。街のアウトドアショップを覗けば、トレラン用と思しきウエアやシューズが所狭しと並べられ、登山用品売り場を凌ぐ勢いだ。トレイルランニングが社会に浸透しつつあることを実感されている方も少なくないのではなかろうか。
【写真】祝・初代王者!「第1回アジア太平洋選手権」で奮闘する日本代表チームの勇姿
ところが、「日本トレイルランニング協会」の会長を務めている福田六花氏の表情は、決して明るくはない。
「確かに、ここ10年ほどで、トレランを楽しむ人の数が急上昇したことは間違いありませんし、今も増え続けていることは大変喜ばしいことだと思います。人気の高い国内の大会は、応募者数が定員を上回り、抽選になることもよくあります。確かに盛り上がってはいるのですが、あくまでそれは、トレランを楽しんでいる人たちの間だけ。一歩外に出ると、トレランのことを全くと言っていいほど知らない人ばかり。トレラン民と非トレラン民との間にある壁の存在にいつも、愕然としてしまうんです」(福田氏)
渡航費用は自腹
その“壁”を福田氏が強く意識したのが、昨年10月のことだった。
「国際トレイルランニング協会が主催する、第1回アジア太平洋トレイルランニング選手権が韓国で行われたのです(2024年10月23日~27日@韓国・ウルジュ郡)。世界的に人気のトレランですが、特にここ数年は中国を始めとしたアジア各国で爆発的な広がりを見せています。そうした背景を踏まえて設置された大会で、苛烈を極める戦いを制し、出場全19カ国の中で日本は、団体戦の全種目で優勝。さらに総合優勝も果たしました」
「初代アジア王者」の栄冠に輝いた日本チーム。だが、選手団を率いて帰国した福田氏は愕然としたという。
「この結果について詳しく報じてくれたのは、市民ランナーの愛読誌『ランナーズ』と、日本で唯一のトレラン専門誌『RUN+TRAIL』のみ。テレビやラジオなど、大手メディアは全く動いてくれませんでした。元々、壁はあるなと思っていましたが、まさかここまでとはと、思い知らされました」
ちなみに、日の丸を背負って戦った選手団の旅費や宿泊費といった費用は今回、各選手の“自腹”だったという。人気急上昇中の競技という印象からは程遠いトレラン界の実情。果たして、どのような課題があるのか。福田氏が続ける。
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