ネット記事が大量生産されるいま「ライター」は花形職業か? ベテランライターが「夢のあるオイシイ仕事ではない」と断じる理由

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消費者金融で借りてください

 私自身は、この手の募集に応募する気はない。というのも、すでに様々なメディアの人とツテがあるのに加え、結局応募系の仕事は「やりがい搾取」なのだ。もしかしたらいつか大手出版社のノンフィクション大賞を取れるかもしれない! 芥川賞や直木賞を取るきっかけになるかもしれない! と思うのは自由だが、その確率は限りなく低い。

 挙句の果てには、ウェブライターやウェブサイト構築関連のフリーランスを要請するオンラインスクールまで登場する状況にある。そのサイトを見ると受講料は明記されておらず、問い合わせをした人が質問サイトで言及したところによると「4ヶ月66万円」だったという。

 この書き込みが信憑性のあるものかは分からないが、将来的にガッポガッポ稼ぐ手段を得るための先行投資、と考える人がいるから成立するビジネスである。しかも、その人が「シングルマザーなのでそんなお金は出せない」と運営に伝えると「消費者金融で借りてください」と言われたそうだ。

「おいしい話」だけをしないでいただきたい

 だが、66万円をライターで稼ぐのは相当大変なことである。私自身、雑誌が多数売れていた2001年に無職からライターになり、『日経エンタテインメント!』等のメジャー雑誌で記事を書いたが、年収は60万円だった。

 そこから知り合いを増やし、「お前、ウチで仕事する?」などとオファーが多数来て人並みの生活ができるようになったが、顔も合わせたことがない人物・会社からの採用でガッポガッポ稼ぐのはかなり困難だろう。

 ここで結論を言うが、文章を書いて稼げる人間というのは【1】類まれなる才能を持った人物【2】発注主の無茶振りに対して「はい、わかりました! 喜んで!」と言い、深夜3時だろうが対応する根性のある人物【3】とにかく人から好かれて文章力に難があっても仕事をもらえる人物【4】男性発注者が一緒に仕事をしたい若い美女【5】とある専門分野においてオタク的知識と人脈を持つ人物――これなのである。

【4】の「美人」は、問題はあるが、事実である。これらは実際のコミュニケーション・実績から発生するわけで、昨今のオンラインでのライター応募等ではなかなかアピールできない点だ。とにかくライターを募集する会社・組織は「おいしい話」だけをしないでもらいたい、と古参のオッサンライターとして思う。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ、佐賀県唐津市在住のネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』『よくも言ってくれたよな』。最新刊は『過剰反応な人たち』(新潮新書)。

デイリー新潮編集部

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