「問題は彼の政策ではなく、傲慢さ」 英国政府が最も注目した政治家・小沢一郎 機密ファイルを読み解く

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「第二の明治維新が必要」

 結局、94年4月に羽田内閣に交代したが、それも、社会党の離脱で短命に終わり、同6月、自民党、社会党、さきがけの連立内閣ができた。総理は何と、自民党と犬猿の仲だったはずの社会党、村山富市委員長である。

 まるでジェットコースターで、その直後、英国大使館幹部が自民党の額賀福志郎、加藤紘一と会った。彼らによると、政権奪取の鍵は、“反小沢”だったという。

 特に社会党の反発はひどく、自民党は、皆で手分けして説得して回った。あるグループは、半年で50回以上、社会党の関係者と会い、仲間に引きずり込んだ。小沢の剛腕ぶりが、相手につけ込む隙を与えたのだった。

 その小沢は、政局が一段落した94年9月13日、ジョン・ボイド英国大使と会った。かねて会見を申し込まれていたが、ようやく時間が取れたか。この日の彼はいつになく冗舌で、その詳細な記録がある。

 まず小沢は、心臓病を自ら明かし、今は無理のない日程を組み、疲れたらプライベートで英国に旅行するという。

「小沢によると、東西冷戦が終わって、世界は変革期を迎えている。特に日本は劇的な変化を迎え、新時代に入ろうとしている」

「明治維新で、日本は数千(ママ)年にわたる孤立を抜け、英国と手を組んで世界の一員となったという」

「彼は、日本には第二の明治維新が必要だと信じている」

「問題は彼の政策ではなく、傲慢さ」

 小沢が歴史に関心を持ち、特に明治維新に魅かれているのはよく知られる。過去の著書や対談でも、伊藤博文、大久保利通、坂本龍馬といった名前を挙げていた。彼らの卓抜したリーダーシップが魅力らしい。その点、小沢は純粋なロマンチストの面があり、それをボイド大使も気に入ったようだ。現に本国にこう報告している。

「日本の政治を再建させ、より対外的責任も負うという小沢の考えは、徐々に幅広く、特に外務省で支持を広げている」

 だが維新は、決して一部の英雄が成し遂げたのではない。帝国主義の時代、このままだと欧米列強の餌食になる。そんな危機感から、大名や下級武士らが集まった。そして仲間への説得、共感で、立場の違いを乗り越え団結し、新政府を樹立した。これを支援したのが英国で、後に「明治維新」と呼ばれたに過ぎない。

 この説得と共感が小沢に欠けているし、要らぬ敵を生む理由でもある。ボイド大使も報告で、「問題は彼の政策でなく、傲慢(ごうまん)さだ」と断じた。

 小沢は82歳になった今も、政権交代を夢見ているという。英国立公文書館は、伊藤や大久保についてのファイルもあるはずだ。先人が、一体どうやって維新を遂げたか。今度、ロンドンへ行く際、ぜひ立ち寄ったらどうだろう。

ジャーナリスト 徳本栄一郎

週刊新潮 2025年2月13日号掲載

特別読物「『問題は彼の政策ではなく、傲慢さだ』独自入手 小沢一郎 英国機密ファイル」より

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