「問題は彼の政策ではなく、傲慢さ」 英国政府が最も注目した政治家・小沢一郎 機密ファイルを読み解く
5億円のヤミ献金疑惑も
戦後の日本は、ロッキード事件やリクルート事件などいくつも政治スキャンダルがあった。その中で、東京佐川急便事件はちょっと特異だった。
1992年2月14日、東京地検特捜部は、運送大手の東京佐川急便の渡辺広康前社長と幹部らを特別背任容疑で逮捕した。暴力団の稲川会の関係企業などに、巨額の融資や債務保証をしたという。そして、竹下内閣の発足前、「ほめ殺し」という妨害活動をしていた右翼団体を押さえようと、金丸が渡辺を通じ、稲川会に協力を依頼した疑いが浮上した。
また、渡辺から金丸に5億円のヤミ献金が渡り、他の国会議員も金を受け取っていた疑惑が出る。海外のマスコミも報じ、政界を巻き込むスキャンダルに発展していった。
そして渡辺が逮捕された日、英国大使館からロンドンに報告が送られる。
「表に出ていないが、金をもらった100名以上の政治家のリストがあるとされる。自民党と野党の両方が関わっているという」
「このスキャンダルは爆発して、政界への影響は広範囲に及ぶと思われる」
作成したのは28歳の女性外交官、ジュリア・ロングボトム、現在の駐日大使だ。英ケンブリッジ大学を卒業後、外務省に入り、この2年前の90年、政治担当書記官として着任した。彼女の文書を読むと、極めて有能な外交官だったと分かる。
地方で選挙があれば、現地へ行き、各陣営の態勢や支持団体を調べて回る。関係者に直接当たり、生の情報を入手する。そして92年4月7日の夜、都内のある会合で、彼女は国会議員や佐川事件を追うジャーナリストを紹介された。
「不屈で野心もある」
彼らによると、検察は7月の参議院選挙まで、自民党議員の名前は出さないつもりという。佐川と社会党の安恒(良一)議員の疑惑は表に出ているのに、だ。一体どうしてか。彼女が聞くと、検察の保守的体質のためで、政権に打撃を与えたくないらしい。
翌日、ロングボトムはロンドンに詳細な報告を送るが、その読みは当たった。参議院選挙が終わった後、8月下旬、前述の通り佐川急便から金丸への5億円のヤミ献金が発覚したのだ。
金丸は東京地検に上申書を提出、政治資金規正法違反を認めた。結局、略式起訴され、罰金20万円を命じられるが、これに世論が激高した。裏金を5億ももらっておいて、たった20万か。今の自民党の裏金どころでない。東京地検が入る建物の表札に、ペンキがぶちまけられる事件も起きた。
この間、竹下派で、小沢と他の幹部たちとの対立が深まる。以前からの不仲が表面化したが、それを英国も追っていた。
「竹下派の後継を巡り、激しい戦いが始まった。この派閥を支配する者が、日本の政界で最も権力を持つといってよい」
「小沢は若く、不屈で野心もあり、独自の政治思想を持つ」
「若い世代に属し、魅力的でもあるが、その嫌がらせといえる戦術で嫌われている」
「彼の敵は小渕(恵三)、梶山(静六)、橋本(龍太郎)らで、彼らは小渕を後継者にしようとしている」
「親小沢か反小沢かで、自民党が割れる可能性もある」(いずれも92年10月20日付)
そして、これも現実となった。この報告から2カ月後の12月18日、小沢と羽田が仲間と共に派閥を離れ、「改革フォーラム21」を旗揚げする。ついに竹下派が割れたが、それだけで終わらなかった。
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