「問題は彼の政策ではなく、傲慢さ」 英国政府が最も注目した政治家・小沢一郎 機密ファイルを読み解く

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「壊し屋」と忌み嫌われる一方で熱烈な信奉者もいる。わが国の政界を席巻し続け、今も独特の存在感を放っているのが小沢一郎(82)だ。その小沢を“友邦”英国はいかに観察し、評価してきたのか。封印が解かれた英国立公文書館の機密書類を徳本栄一郎氏が読み解く。

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 駐日英国大使館は皇居の目の前、半蔵濠に面している。正門を入ると、英王室の紋章を掲げた建物がある。周囲は桜の木が植えられ、都会の喧騒(けんそう)を忘れさせる静けさだ。

 この敷地は、明治維新直後の1872年、明治政府の好意で貸し出された。以来、対日外交の拠点として、明治から大正、昭和、平成、令和のドラマを目撃してきた。

 1993年8月9日、ここからロンドンの英国外務省に一通の報告が送られた。

「38年ぶりに非自民政権が生まれ、戦後の日本の政治の歴史的転換点となった」

「連立に参加した全政党の指導者が閣僚ポストを得たが、(中略)主な例外は小沢一郎である。彼こそ、羽田(孜代表)率いる新生党の真の権力者で、新政権の知的立役者となる人物だ」

「何十年わたって自民党と密接だった官僚に、新閣僚が権威を示せるかは不透明である」

 この日、日本新党代表の細川護熈を総理とする内閣が発足した。同党の他、新生党、日本社会党、公明党などじつに8党派の連立内閣だ。1955年の結党以来、政権を担ってきた自民党が初めて下野した。いわゆる「55年体制」の崩壊で、政治史に残る出来事だった。

見つかった“小沢ファイル”

 その立役者が、自民党の離党者で結成された新生党の代表幹事、小沢一郎だ。戦後の政界で、これほど毀誉褒(きよほうへん)貶の激しい男も珍しい。ある人は、心酔して熱狂的に支持するが、ある人は、蛇蝎のごとく忌み嫌う。「剛腕」「壊し屋」と呼ばれ、常に陰に隠れ、裏から政治を動かすイメージが強い。良くも悪くも、今も独特の存在感を放っている。

 その小沢に注目して、動向を追ってきたのが英国政府だ。

 よく知られるように英国の公文書は、一定期間がたつと、所定の審査を通じて機密解除される。ロンドンの外務省や首相官邸、在外公館の文書も対象だ。幕末から現在までの日本関連の記録もあり、それらは英国立公文書館に移される。

 そして、ここ数年、90年代の対日外交文書が公開された。そこで見つかったのが、“小沢ファイル”と呼ぶべき文書群だった。

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