公立中学が敬遠される「内申書への不信」という難問…専門家が明かす「公立中学を再生させる“たったひとつの方法”」とは
「成績が良くても頭が悪い」人々
ところが弁護士という仕事は“乱脈経営で破産した社長”や“妻に暴力を振るう夫”、刑事事件の被疑者など、普通の生活では出会わない人々と日常的に接する。
「新人弁護士は『自分が育った環境の中にはいなかった人ばかりで、会うだけで苦痛です』と辞職の理由を説明したそうです。それだけで私立中が悪いとは言えませんが、似たような学力や境遇の友人たちに囲まれて育った影響は無視できないと思います。一方、公立中は勉強ができる生徒はずば抜けて優秀ですし、小学校の学習内容からやり直したほうがいい生徒もいます。スポーツ万能でプロの世界に進める可能性を秘めた生徒もいれば、完全な運動音痴という生徒もいます。中学生は13歳から15歳という非常に多感な時期ですが、そこで人間の多様性に関して骨身に染みるほど具体的な経験を積み重ねます。まさに“アンビリーバブル”な体験であり、一生の宝であることは言うまでもありません。社会人になっても中学の経験を糧として多様性に対応できるわけです」(同・親野さん)
私立中が生徒の成績を伸ばすことに長けているとしても、その生徒が「頭がいい」とは限らない。
親野さんは高齢者の患者に早口で専門用語をまくし立てる医師を病院で見て呆れ返ったことがあるという。「成績が良くても頭は悪い」の典型例だろう。
公立中に足りないもの
中学受験の過熱を抑え、一人でも多くの小学生が自分にマッチした中学校に進学するためには、どうしても公立中の“再生”が必要になってくる。
公立中を復活させるというプロジェクトは桁違いの難易度のように思えるが、親野さんは「たった一つのことだけを本気で実施すれば公立中は蘇ります」と断言する。
「それは公立中に充分な予算を注ぎ込むことです。これさえできれば、保護者が公立中を見る目が変わるはずです。具体的には公立中のクラスを20人とか15人に減らし、授業を担当する教師を2人に増やしたらどうでしょうか。公立中のメリットである『生徒の多様性』を維持しながら、生徒一人一人が必要とする授業を行うことができるはずです。成績の良い生徒には難しい課題を与え、成績の良くない生徒には基礎からやり直す。ヨーロッパの学校では日常的な風景ですが、OECD(経済協力開発機構)の調査で日本の教育にかける予算は常に最下位を争っています。これでは公教育が機能するはずがありません」
第1回【“中学受験”過熱のウラで…わが子を「私立中に入れたい」ではなく「公立中に通わせたくない」と考える保護者が増加中 教育評論家が指摘する「公立中の課題」】では、公立中の抱える問題や、保護者が私立中を評価する背景について詳細に報じている──。
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