“中学受験”過熱のウラで…わが子を「私立中に入れたい」ではなく「公立中に通わせたくない」と考える保護者が増加中 教育評論家が指摘する「公立中の課題」

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学力が均質な空間

 授業を成績上位の生徒に合わせると、真ん中から下の生徒は理解が難しくなる。成績下位の生徒に合わせると上位陣は退屈してしまう。

「やはり成績が中位の生徒に合わせて授業を進めるより他に方法はないのですが、そうすると上位陣と下位陣の一部が不満を持つわけです。どっちに転んでもクラス全員の知的好奇心を刺激することができない。公立中の、しかも3年生を相手にする数学の授業は、これほど難しいものなのかと実感しました」(同・親野さん)

 国語や社会なら現実社会との接点がある。多くの生徒の関心をかき立てる授業は可能かもしれない。一方、数学や理科はどうしても概念的な内容になってしまう。理解が困難という生徒が出てしまう原因となる。

「一方、ほとんどの私立中は入試を実施しています。いわば“ふるいに掛けられた”生徒たちですから、公立中のクラスより学力の均質性がはるかに高くなります。入試偏差値が50という私立中があるとして、トップ層は偏差値75で下位層は35といったばらつきは基本的にあり得ません。クラスで平均的な学力を持つ層に合わせて教師が授業を進めても、多くの生徒が納得できる可能性が高いのです。これは特に理数系の教育には理想的な環境だと言えます。生徒の学力を伸ばすという点では、確かに私立中が有利な面はあるのです」(同・親野さん)

内申書問題

 教師の“働き方”も公立中の不人気に影響を与えているという。昨今、あまりの激務で心身共に疲れ果てた教師が増えているのはご存知の通りだ。

「激務に疲れ果てた教師は、やはり公立校に勤務しているケースが多いでしょう。また保護者も『私立中の教師は公立中の教師に比べ、授業に専念できる環境が整っている』というイメージを持っているはずです。何よりも公立中をブラック企業のようだと考えている保護者は少なくなく、そんな問題のある中学校にわが子を預けようとは思わないのです」(同・親野さん)

「公立中にだけは通ってほしくない」と考える保護者の中には、中学校の内申書を問題視する者が多い。「うちの子は内気なタイプだから、内申点は良くないはずだ」と判断し、内申書が必要ない私立中の入試を受験するというわけだ。

 果たして、この「内申書は問題だらけ」という親の考えは正しいのだろうか、それとも間違っているのだろうか。

 第2回【公立中学が敬遠される「内申書への不信」という難問…専門家が明かす「公立中学を再生させる“たったひとつの方法”」とは】では、内申書の“弊害”を詳しくお伝えする──。

註1:朝日新聞(電子版)は2月1日、「中学受験が東京と神奈川でピークに、上位層の出願に変化か 関西は」との記事を配信。栄光ゼミナールの調査結果として「首都圏の国公私立中を受験する小学生は6万6400人」と報じた。

註2:NHK NEWS WEBは2月1日、「東京・神奈川 私立中学の入試始まる 受験者数は“高止まり”」との記事を配信。首都圏模試センターの調査結果として、「1都3県を中心とした受験者数は5万2300人」と報じた。

デイリー新潮編集部

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