“中学受験”過熱のウラで…わが子を「私立中に入れたい」ではなく「公立中に通わせたくない」と考える保護者が増加中 教育評論家が指摘する「公立中の課題」
格差社会と勝ち組・負け組
「2006年の新語・流行語大賞で『勝ち組・負け組・待ち組』がノミネートされました。つまり従来の日本人が持っていた“一億総中流”の意識が完全に消滅した年だと位置づけられます。保護者は『わが子を勝ち組にするためには、偏差値の高い大学に進学させる必要がある』と判断し、難関・有名大学の合格実績が豊富な私立の中高一貫校に注目したのです。さらに2006年は『公立中は荒れ、学級崩壊は常態化。教室の質は悪く、いじめが横行している』という報道が非常に増えた年でもありました」(同・親野さん)
なぜ公立中の教育環境が問題視されたのか。その謎を解く鍵も新語・流行語大賞にあった。2006年は「学力低下」がノミネートされ、「格差社会」がトップテンに選ばれたのだ。
「2006年に“ゆとり世代”が大学生となり、大学関係者から『学力が低下している』との指摘が相次ぎました。そして、ゆとり世代は間違った公教育によって産み出されたと受け止めた保護者も多かったのです。さらに『格差社会』の受賞者は社会学者の山田昌弘さんでした。山田さんは著書の『希望格差社会 ――「負け組」の絶望感が日本を引き裂く』(筑摩書房)が大きな反響を呼んだことで知られています。日本は勝ち組と負け組に完全に分断され、『将来の夢や希望』でさえも勝ち組でなければ抱き得ないことを明らかにしました」(前出のフリーライター)
難しい公立中の授業
小学生の子供を持つ保護者は「公教育に任せていると、わが子は負け組になってしまう」との不安を持つようになった。これに受験産業も敏感に反応する。
「本来であれば、少子化で受験産業の市場規模は減少する一方だったはずです。ところが2006年以降、中学受験が改めて注目されるようになりました。この風潮を受験産業はしっかりビジネスチャンスに変えたのです。私立中の教育内容は公立中より優れ、中学受験に挑戦すべきだと宣伝しました。わが子を勝ち組にしたいという保護者の切実な希望と受験産業のアピールがマッチし、中学受験がさらに過熱することになった“原点”が2006年だと言えます」(前出の親野さん)
しかし冷静になってみると、公立中に対する保護者の悪いイメージや、私立中が大学進学に有利という受験産業の宣伝は、どの程度の信憑性があるのかという疑問も生じる。親野氏に聞くと、「当たらずといえども遠からず、というところでしょう」と言う。
「およそ10年前のことですが、公立中に勤務する数学の先生が中3の生徒を教えるという公開授業を拝見しました。公開授業を任されるほどですから非常に授業が上手な先生でしたが、それほどの人でもやはり授業には苦労しておられました。なぜなら成績が優秀な生徒と、そうではない生徒の差があまりにも大きいからです」
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