23歳でこの世を去った世界王者「大場政夫」 元日に亡くなった長野ハルさんが語っていた“後悔”(小林信也)

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拳は打つためにある

「帝拳のマッチメークは見事でした。すぐ世界挑戦させず、ノンタイトルを2度やってから、ビラカンポに勝ったベルクレック・チャルバンチャイ(タイ)に挑戦してタイトルを取るんです」

 熱いまなざしで語るのは、ビラカンポ戦以後の試合はすべて会場で見たというボクシング・ウォッチャーの石井彰英だ。

「大場は本来、美しいアウトボクサーです。世界王者になった後スタイルが微妙に変わった。完璧なワンツーからフィニッシュにもっていくプロセスをはしょるようになりました」

 いきなりKOを狙うような強引な攻めが目立った。

「倒さなきゃの意識が強すぎたのか。それで倒せるんだから大したものです」

 大場は常々次のように話していた。

「拳は打つためにある。守るためには使わない」

 ガードはしない。自分は徹底して攻めるんだ……。

 攻めて攻めて王者になり、約束通り母に庭付きの家を贈った。だが、その先の夢を追うことなく、大場はベルトを巻いたまま空の彼方に消えた。

小林信也(こばやしのぶや)
スポーツライター。1956年新潟県長岡市生まれ。高校まで野球部で投手。慶應大学法学部卒。大学ではフリスビーに熱中し、日本代表として世界選手権出場。ディスクゴルフ日本選手権優勝。「ナンバー」編集部などを経て独立。『高校野球が危ない!』『長嶋茂雄 永遠伝説』『武術に学ぶスポーツ進化論』など著書多数。

週刊新潮 2025年2月13日号掲載

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