23歳でこの世を去った世界王者「大場政夫」 元日に亡くなった長野ハルさんが語っていた“後悔”(小林信也)
現役のWBA世界フライ級王者・大場政夫が交通事故で死んだ。真昼のニュース速報は日本中に衝撃をもたらした。
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1973年1月25日午前11時20分過ぎ、時速百数十キロで疾走していた白いシボレー・コルベット・スティングレイ・クーペが首都高速5号池袋線、飯田橋出口と早稲田出口の間にある大曲カーブを曲がり切れず、中央分離帯を乗り越えた。渋滞で反対車線に停車していた大型トラックに激突。運転席側が大破し、運転していた大場はほぼ即死だった。
3週間前、チャチャイ・チオノイ(タイ)を12回KOで倒し、5度目の防衛に成功したばかりの世界王者が23歳で世を去った。
チャチャイとの防衛戦も衝撃的な展開だった。初回、元王者チャチャイの強烈な右フックを浴びて大場はいきなりダウンを奪われた。しかも立ち上がった大場の足はけいれんしていた。実況アナウンサーが叫んだ。
「足にきています。大場足にきている!」
このラウンドで大場はマットに沈むのではないか。観客の多くが案じた。が、チャチャイは激しく打ってこなかった。
大場は足首を捻挫していた。セコンドが足首を冷やしたが、痛みは引かなかった。それでも気の強い大場は果敢に打ち合い、中盤から徐々に優勢に転じた。そして12ラウンド、激しい連打でダウンを奪うと、立ち上がったチャチャイにさらに連打を浴びせ、3度ダウンを奪いKO勝ちした。
大場は半年前、オーランド・アモレス(パナマ)との防衛戦でも1ラウンドにダウンを喫している。2戦続けて逆境をはねのけた劇的ボクサー大場の人気は上昇した。メディアは彼を「逆転の貴公子」と呼んだ。
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