「発生した硫酸が下水管を腐食させる」「マンホールが多い場所は要注意」 八潮・道路陥没の三つの不運
「事故現場は大昔には海だった」
まことに気の毒としかいいようのない出来事だが、事故が起きた原因を探っていくと、決して他人事とは思えない。
陥没した道路の管理者である埼玉県は、事故原因について〈中川流域下水道の下水道管の破損に起因すると思われる〉と発表している。事故現場の地下10メートル下にあった下水道管が壊れただけで、なぜ大きなトラックが飲み込まれるほどの陥没が起きたのか。
「下水管に穴が開くと、そこに地中の土砂や地下水が流れ込む。そうなると下水管と道路の間に空洞が生じて陥没に至ります」
と解説するのは、元国土交通省技官で東京大学大学院工学系研究科特任准教授の加藤裕之氏だ。
「今回の事故現場は、もともと大昔には海だった影響もあって、恐らく地盤が緩くて地下水位が高い箇所だったと思います。地盤が崩れると、地下水の関係で土砂が大量に流入しやすい。そうした地質だった可能性があるかと思います」
「有機物の汚れがエサのような役割を果たす」
たしかに被害者の捜索を阻んできたのは、止まらない地盤の崩落で穴が拡大し続けたことにある。そして下水管に多量の土砂が流れ込んだことで、目詰まりが起きて汚水が逆流。現場には多量の水がたまって、救助は難航を極めている。
かような大惨事は、前述した地盤の要因と合わせて三つの不運が重なって起きてしまったとみられる。
そもそもの発端となった下水管の穴は、どんなメカニズムで生じるのだろう。
再び加藤氏に尋ねると、
「下水中や下水管の底の堆積物には硫酸塩還元菌という菌がいます。この菌は嫌気性といって、酸素の少ないところで繁殖し、硫化水素を発生させます。硫化水素は水の中から空気に触れて反応が起きると硫酸になる。ご存じの通り、硫酸はさまざまなものを溶かす作用があるため、下水管をも腐食させてしまうのです。こうした細菌にとって、下水管に流れる屎尿(しょう)や洗剤の残りなどの有機物の汚れは、エサのような役割を果たしてしまうのです」
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