超多忙でも「みのもんた」が銀座に通い続けた理由…“不遇の時代”に実父がポツリとつぶやいた「ありがてえ」の意味

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爪にこびりついた油

 仕事は役所や水道局への飛び込み営業だった。ライトバンを運転して正男さんと全国を駆け巡った。

 和歌山・新宮市でのこと。商人宿のようなホテルでビールを買おうとしていたら、久米宏と黒柳徹子が司会を務め、当時、人気絶好調の「ザ・ベストテン」(TBS系)がテレビで放送されていた。

「ついこの前までは、俺もあそこにいたのに……」

 爪を見ると水道メーターを着脱する時にこびりついた油がついている。「人生の敗者」という言葉が思い浮かび、挫折感でいっぱいになった。

 そんな姿をそっと見ていた正男が、暗い夜の街に誘った。入ったのは壁も汚れた、お世辞にもキレイとはいえない、たった2畳ほどの赤提灯。

「冷やでいいや」

 父親がコップに日本酒をなみなみと注いでもらう。みのも一杯もらう。親子で「お疲れさん」と言って、酒を喉に流し込んだ。アルコールが体中に染み渡った。思わず目を閉じた。

「うまい!」

 仕事の疲れもさっきまでの敗北感もすっ飛んでいく気がした。

 地物の魚料理などを頼み、「おいしい」と言うと、70歳を過ぎた女将さんが次々に肴を出してくる。飲めや食えや。楽しい。日本酒もグイグイやって、気がついたら一升瓶が空になっていた。

 そして、女将さんに見送られながら帰途についた当時を、こう回想した。

「豪遊したみたいな気分になり、鬱屈した気分がプワーッと洗い流され、満ち足りた気分になった」

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