小室佳代さんが作りたかったのは料理よりも「お嬢様イメージ」 「“世間につけられた下品な印象を覆してやる”という強い決意が」

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料理レシピより筆が乗るのはステータスへのこだわり にじみ出る「お嬢さん」としての高揚感と自意識

 紹介される料理も、日本の食卓ではあまりなじみのないドイツ料理が多い。佳代さんが薫陶を受けた、鎌倉山でお店を営んでいたドイツ人マダム直伝のレシピのようだ。ただしレシピは分量すら書かれておらず、5行ほどの説明と佳代さんの自筆のモノクロイラストのみ。だから完成した料理の彩りがどうなるか、いったい何人分くらいなのかというのは想像するほかない。一番最初に紹介される「ザワーブラテン」なるドイツ料理に至っては、「月桂樹や野菜のクズ(玉ねぎ、人参、セロリ葉等)と一緒に白ワイン、水、酢のマリネ液に2~3日漬け込む」とあり、「3日もかかるのかーい!」と思わず笑ってしまった。

 これほどに料理レシピは不親切なのに、自分や周囲の人間のステータスに関してはずいぶん描写が細かい。鎌倉に生まれ育ち、ピアノに華道にと育った少女時代。母は「外資系企業」、夫は「都市計画のビッグプロジェクトに関わる部署で働く」「一級建築士の資格」持ち。圭さんのインターナショナルスクール時代に出会った同級生の母は、「産官学各界の会議で同時通訳として活躍」する、「海外の大物女優から信頼も厚」い、会社経営もこなすスーパーウーマンだったそう。その女性から「富裕層を対象としたツアー」を提供する旅行会社のフォーラムで、圭さんに通訳のアルバイトの打診があったこと。その息子は強制したわけでもないのに、「おとうさま・おかあさま」と両親を呼んでいたこと、などなど。

 それらは元婚約者との金銭トラブルや、息子と皇族女性の結婚について、金の亡者だの上昇志向が強いだのと浴びせられた批判への抗議にも見える。自分も息子も豊かなバックグラウンドと教養を持つ人間であり、成り上がりのように言われるのは不愉快だと。なにせ序章タイトルは「対等な関係性が居心地いいね」である。息子とのフラットな関係性について語ってはいるものの、息子以外との人間関係についても含みを持たせるようなタイトルと言っては深読みしすぎだろうか。

 佳代さんは夫から見た自分の印象を「おっとりしたお嬢さん」とつづっているが、その夫との出会いについて書かれた章では、ひと昔前のケータイ小説のようなタイトルが並ぶ。「異国文化に恋した70’s~横浜物語~」「ラブストーリーは突然に~夫との再会~」……最後の「Everything is gonna be Alright♪」という締めの一文はもう、脱力しそうな懐かしさというか古臭さだ。病を患う悲恋のヒロインというのは王道の展開だが、佳代さんの文章からも、ヒロインとして注目を浴びることへの陶酔と高揚感が感じ取れるような気がするのである。

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