「7人のイラン人」が梯子を作って塀を乗り越え…96年の旧東京拘置所「集団脱走」事件で「110番通報まで1時間以上」かかった驚きの内部事情
同じような立場、罪状の人間を同じ房に
東京拘置所の稲田辰雄・調査官は、
「逃走したイラン人7人は、北舎1階の雑居房(約11畳大)に逃走しなかった1人と計8人で入っていました。現在、所内には60人のイラン人が入っていますが、この8人以外は全員独居房です。
実は、この北舎は築60年を超えていて、3階會が雨漏りがするなどして閉鎖されているんです。また、喧嘩があった時などの為に一定数の空房も用意しておかなくてはいけません。それに、現在オウム事件で50人前後入っていることもあり、このイラン人8人はこれまで問題も起こさず、一緒にしても大丈夫だろうと雑居房に入れたら、こういう結果になってしまったんです」
と弁解する。それにしても、逃走した7人の内、入管難民法違反の1人を除いて全員が、大麻や覚せい剤など何らかの薬絡みの罪に問われているという。
「確かに、同じような立場、罪状の人間を同じ房に入れるのはおかしいと言われれば、全くその通りです」(調査官)
と、拘置所側はひたすら低姿勢の構えなのだが、警備や監視のユルフン振りは、呆れるばかりなのである。
塀を乗り越え梯子を組み立て…
拘置所の警戒ベルが鳴ったのが12日午前3時20分。この時7人は既に、拘置所の一番外側にある5.4メートルの塀に取りついていた。雑居房を抜け出してからここまで、7人は5メートルの内塀と、刑場を囲う2メートルのブロック塀を乗り越えて来ている。
それを可能にしたのは、プレハブ小屋の建設現場の近くに放置されていた鉄パイプ、木材、鉄筋と、房から持ち出した支給品のシーツを使って、約6メートルの梯子を組み立てていたからだった。どう見積っても10分か15分は掛っているのだが、この間、拘置所内の監視機構は何一つこの異状を察知することができなかった。
「逃走に気づいたのは、外塀の上に張ってある4本の防犯線が反応し、所内保安本部にある警戒ベルが鳴ったことが発端でした」
と、調査官。ところが、
「このベルはどの方面の防犯線が反応したくらいしかわからないしろもので、場所まで特定できないんです。また、これは鳥が乗ったりボールが当たって も鳴るものですし、逃走以外にも侵入も考えなくてはいけませんので、各区を分担して全舎房の人員点呼をし、7人の逃走がわかり、110番通報をしました」
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